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怒り
（2016年 日本）（上映時間2時間21分）
監督・脚本：李相日
出演：渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、佐久本宝、ピ
エール瀧、三浦貴大、高畑充希、原日出子、池脇千鶴、宮崎あおい、妻夫木聡
＊TOHOシネマズ日劇ほかにて全国公開
ホームページ http://www.ikari-movie.com/
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＜ストーリー＞
東京・八王子で残忍な夫婦殺人事件が起こる。室内には「怒」という血文字が
残されていた。犯人が逃亡して１年後。三つの場所に、素性の知れない男たち
が現れる。新宿・歌舞伎町の風俗店から、千葉の漁協で働く父・洋平（渡辺
謙）に連れ戻された愛子（宮崎あおい）は、ふらりと現われた青年・田代（松
山ケンイチ）と恋に落ちる。会社員でゲイの優馬（妻夫木聡）は、東京・新宿
のサウナで出会った直人（綾野剛）を家に住まわせる。沖縄の離島に住む高校
生の泉（広瀬すず）は、無人島でバックパッカーの田中（森山未來）と遭遇す
る……。
＜レビュー＞
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「信じる」ことをめぐる濃密で完成度の高い作品
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『悪人』の李相日監督が再び吉田修一の小説を映画化しました。私はすでに小
説を読んでいたのですが、なかなか面白い作品でした。ただし、冗長だったり、
描ききれていない部分も多くて、不満が残ったのも事実です。
住宅地で夫婦が惨殺されます。現場には「怒り」の文字が。犯人は逃亡して1年
後。それと似た素性のわからない男が、千葉・東京・沖縄に現れます。千葉に
現れたのは田代という男。ふらりとやってきて漁協でアルバイトを始めます。
その漁協に勤める洋平は家出した娘・愛子が、歌舞伎町の風俗店にいると知り
連れ戻します。やがて愛子と田代は親しくなります。東京に現れたのは直人と
いう男。ゲイの会社員の優馬と出会い、彼の家で暮らすようになります。そし
て沖縄の無人島に現れたのは、田中という男。近くの離島に住む泉という高校
生と知り合います。
観て思ったのは、原作をそつなく描いていること。なにせ３つの話が同時に展
開する長い小説なのですが、登場人物を大胆にカットしたり、ディテールを微
妙に変更するなどして過不足なくまとめています。
そして何よりも感心させられたのが、３つのエピソードの絡ませ方です。それ
ぞれ直接交差しない話だけに、原作ではぶつ切り状態で読みにくかったのです
が、この映画では巧みな編集によって没入しやすくなっています。おかげで、
最後までスクリーンから目が離せませんでした。
「誰が真犯人か？」というミステリーのスタイルを借りつつも、人間ドラマを
追及しているのは原作と同じ。しかし、原作よりはるかに濃密な世界が展開し
ます。周囲の人々は、最初は３人の男たちに対して疑心暗鬼でいます。しかし、
次第に信頼を寄せるようになります。ところが、例の殺人事件の犯人との類似
性を知り、強い疑いを抱きます。
田代に対する洋平と愛子の親子、直人に対する優馬、田中に対する泉と同級生
の辰哉。彼らの「こいつを信じていいのか？」「信じたいけれど、信じきれな
い」というギリギリの心情が、リアルに切り取られています。そのあまりの切
迫感は、観ているこちら側が息苦しくなるほどでした。
同時に、３人の男たちの心情も描かれます。あくまでも犯人をばらさない範囲
での描写ですが、ワケありで孤独な男の心の奥底の思い、そして原作ではあま
り描かれなかった真犯人の狂気（誰かは見てのお楽しみ）などを、きちんと見
せています。
そういう凄味のある描写が実現したのは、渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、
綾野剛、広瀬すず、宮崎あおい、妻夫木聡など豪華キャストの迫真の演技のお
かげ。それをアップを多用した映像で的確に映し出します。
ラスト近くの展開も基本的に原作に沿っていますが、ズッシリ感ははるかに上
です。広瀬すずの叫び、妻夫木聡の彷徨、宮崎あおいの慟哭。どれもが胸に迫
ってきました（ただし、けっして重苦しいばかりではなく、少しだけホッとさ
せられる展開もあります）。
出版社や作家には怒られるかもしれませんが、この映画を観たら原作を読む必
要はないと思ってしまいました。それぐらい完成度が高いし、濃度が高い映画
です。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（92点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2016年9月19日（月・祝）ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後3時30分
の回
[「い」のページ]
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