生きうつしのプリマ(DIE ABHANDENE WELT)


(2016年 ドイツ)(上映時間1時間41分)
監督・脚本:マルガレーテ・フォン・トロッタ
出演:カッチャ・リーマン、バルバラ・スコヴァ、マティアス・ハービッヒ、
グンナール・モーラー、ロバート・ジーリンガー、アウグスト・ツィルナー、
トム・ベック、リュディガー・フォグラー、カリン・ドール
*YEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://gaga.ne.jp/ikipuri/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

<ストーリー>
ドイツに暮らす売れない歌手のゾフィ(カッチャ・リーマン)は、父親に呼び
出され、ネットの記事を見せられる。そこには1年前に亡くなった母エヴェリン
(バルバラ・スコヴァ)と瓜二つの女性が写っていた。彼女はメトロポリタ
ン・オペラのプリマドンナのカタリーナ(バルバラ・スコヴァ)。カタリーナ
のことをどうしても知りたいという父は、ゾフィを強引にニューヨークへと送
り出す。ゾフィはカタリーナに振り回されながらも、家族にまつわる意外な真
実に迫っていくのだが……。

<レビュー>
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
母と瓜二つの女性の謎を追う深みのあるミステリー
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

実在のユダヤ人哲学者を描いた『ハンナ・アーレント』のマルガレーテ・フォ
ン・トロッタ監督の最新作。ミステリー・ドラマです。

主人公の売れないクラブ歌手ゾフィは、父からネットの記事を見せられます。
そこには、1年前に亡くなった母と瓜二つの女性が写っていました。彼女は超一
流のオペラ歌手。メトロポリタン・オペラのプリマドンナのカタリーナです。
彼女のことをどうしても知りたいという父のせいで、ゾフィはニューヨークに
向かうハメになるのですが……。

亡き母と有名なプリマドンナがなぜ瓜二つなのか。その謎をゾフィが探ってい
くドラマです。父の不審な言動、認知症のカタリーナの母の不可思議な話、古
い写真、母の墓前の花といった細かなネタを積み上げながら、謎を増幅させて
いく仕掛けが秀逸。ドイツとニューヨークを舞台に、無駄なシーンを排除して
ポンポンと畳みかけるような構成も、謎の増幅に貢献しています。

それと同時に描かれるのは、ゾフィの惑いの人生。売れない歌手で、生活費を
稼ぐために結婚式のプロデュースをして様々なカップルと接しているゾフィ。
しかし、クラブをクビになり、恋人とも別れてしまいます。そんな彼女が、ニ
ューヨークで出会ったカタリーナのエージェントと恋に落ちるようすも、謎の
追及話と並行して描かれます。

やがてゾフィが追っていた謎が、少しずつ明らかになっていきます。そこには
意外な家族の秘密が……。

描き方によっては暗くて重たくなりそうな話ですが、そういう感じはしません。
軽妙にユーモアを散りばめて描いていることに加え、単に家族の秘密をさらす
だけでなく、様々な人々の人生模様を描いているからです。

そこには良いことも悪いこともあります。例えば、ゾフィのロマンスもそうだ
し、カタリーナの元夫や息子の現状もそう。ある兄弟の確執も大きく取り上げ
られています。さらにカタリーナと実父との絆や、ゾフィが仕事で接するカッ
プルの微妙なすれ違いも描かれます。

それらを通して伝わってくるのは、「人生は思い通りにならないことや苦しい
こともたくさんあって複雑怪奇。だけど、けっして悪いことばかりではない」
という、作り手のメッセージです。ベテラン監督ならではの年輪を感じさせる
ような映画。単なるミステリーではない、深みが感じられます。

『ハンナ・アーレント』で主役を演じたバルバラ・スコヴァがゾフィの母とカ
タリーナの二役を演じ、『帰ってきたヒトラー』で視聴率至上主義の女性テレ
ビ局長を演じたカッチャ・リーマンがゾフィ役を演じています。この2人の演
技も観応え十分。この映画では、カタリーナが歌うオペラ、ゾフィが歌うジャ
ジーな曲が効果的に使われるのですが、どちらの歌声も本人のもののようで、
こちらも聴き応えがあります。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆(+1/2★)
(88点)

                             (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2016年7月18日(月・祝)YEBISU GARDEN CINEMAにて。午後12時50分の回



[「い」のページ]