教授のおかしな妄想殺人(IRRATIONAL MAN)


(2015年 アメリカ)(上映時間1時間35分)
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ホアキン・フェニックス、エマ・ストーン、パーカー・ポージー、ジェ
イミー・ブラックリー、ベッツィ・アイデム、イーサン・フィリップス
*丸の内ピカデリーほかにて全国公開
ホームページ http://kyoju-mousou.com/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

<ストーリー>
アメリカ東部の大学に赴任してきた哲学教授のエイブ(ホアキン・フェニック
ス)は、人生の意味を見失い、無気力な日々を送っていた。そんな彼に教え子
のジル(エマ・ストーン)は恋心を抱き、夫婦生活に問題を抱える同僚リタ
(パーカー・ポージー)もアプローチする。ところがある日、悪徳判事の噂を
耳にしたエイブは、その判事を自らの手で殺害する完全犯罪を思いつき、次第
にその計画に夢中になっていく。それをきっかけに、エイブの人生は再び輝き
出すのだが……。

<レビュー>
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
殺人計画で無意味な人生が輝きだす皮肉さ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ご存知ウディ・アレン監督の映画です。人生の皮肉さを笑いとともに描く、い
かにもアレン監督らしいシニカルな映画です。

主人公は大学の哲学教授のエイブ。新しい大学に赴任したものの、過去にいろ
いろあったらしく精神的にボロボロ。酒浸りだったり、性的不能だったり、挙
句は自殺願望があってロシアン・ルーレットまでやっちまいます。そんな中、
彼氏がいながら彼に恋するのが教え子のジル。そして、既婚者の同僚のリタも
彼に接近します。そんなある日、たまたま悪徳判事の噂を聞いた彼は、その判
事を殺害する妄想を抱き、その準備を進めていきます。

精神的にボロボロで、生きる意味を見失っていたエイブが、殺人に生きる意味
を見出して、生き生きしていくという設定がこの映画のミソ。なんという皮肉
な展開でしょう。まさに不条理極まりないドラマです。

それをいつものアレン監督独自のタッチで描くのですが(登場人物の独白で話
を進めるあたりもおなじみの手法)、なんだかちょっと違和感があります。ア
レン監督の作品では、どんな役者もアレン・ワールドに染まってしまうのです
が、この映画のホアキン・フェニックスは違います。持ち前のアクの強さ、ク
セモノぶりが健在なので、浮きまくって見えます。軽快な音楽も含めて、コメ
ディー仕立てで描いているのに、ちっとも笑えませんでした。だって、ホアキ
ンったら、まるでサイコパスなんですもの。笑うより怖くなっちゃいますヨ。

とはいえ、後半はなかなかの面白さでした。殺人の罪悪感を封印して、自己を
正当化するエイブと、そんな彼にますます惹かれていくジル。前半のようなア
クの強さが消えて、軽快にドラマが転がります。クスクス笑えるところもあち
こちにあって、人間の複雑さや心の闇が、正攻法ではなく変化球で伝わってき
ました。

結末はありがちなものですが、それでも人生の皮肉という点では、一本筋が通
った展開で、単なる勧善懲悪とは違う味わいが残ります。

それにしてもホアキンのけた外れの存在感ときたら。昔はリヴァー・フェニッ
クスの弟という称号がつきものでしたが、今や押しも押されもしない実力派の
俳優ですね。それに加えてエマ・ストーンもこういう役がピッタリでした。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆
(80点)
                             (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2016年6月12日(日)シネ・リーブル池袋にて。午後4時30分の回



[「き」のページ]