|
マダム・フローレンス！ 夢見るふたり
（FLORENCE FOSTER JENKINS）
（2016年 イギリス）（上映時間1時間51分）
監督：スティーヴン・フリアーズ
出演：メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーグ、レベ
ッカ・ファーガソン、ニナ・アリアンダ
＊TOHOシネマズ日劇ほかにて全国公開
ホームページ http://gaga.ne.jp/florence/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
1944年のニューヨーク。社交界で有名なマダム・フローレンス（メリル・スト
リープ）は、音楽を愛し、財産を音楽家のために使ってきた。そんなある日、
ソプラノ歌手になるというかつての夢を思い出し、フローレンスはレッスンを
開始する。ところが彼女には自分では気づいていない大きな欠点があった。な
んと想像を絶する音痴だったのだ。それでも夫のシンクレア（ヒュー・グラン
ト）は、妻に夢を見続けさせるために奔走する。おかげでますます自信を深め
ていくフローレンスだったが……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
音痴なソプラノ歌手と彼女を支える夫との絆を熟練の演出で
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
第二次世界大戦中のニューヨークで、音痴のソプラノ歌手として知られた実在
の人物フローレンス・フォスター・ジェンキンスを描いた伝記映画です。
主人公のフローレンス夫人は富豪で音楽好き。親から引き継いだ財産で音楽家
を支援しています。映画の冒頭は、そんな彼女が主催する舞台の様子。夫のシ
ンクレア（元大根役者の本領を発揮）が司会をして、フローレンスがド派手な
演出で舞台を沸かせます。フローレンスと夫のキャラクターを端的に表現した
このシーンが秀逸です。
その後、フローレンスはソプラノ歌手になりたいという昔の夢をかなえたくて、
レッスンを始めると言い出します。そのために著名な指揮者に指導を依頼し、
若いピアニストを雇います。そこで発覚するのが驚愕の事実。なんとフローレ
ンスは自分では気づいていないものの、並外れた音痴だったのです。おそらく1
00人が聞いたら100人全員が爆笑するほどの凄まじい音痴です。
伴奏するピアニストは笑いをこらえるのに必死です。しかし、指導する指揮者
と夫のシンクレアは彼女の歌声を絶賛します。何しろフローレンスは音楽界の
有力なパトロン（あの世界的指揮者トスカニーニに資金援助するシーンも登場
します）。音楽関係者が彼女の歌声を持ち上げるのも当然でしょう。おかげで
彼女は調子に乗って、コンサートを開きたいと言い出します。
普通にコンサートを開いたら、彼女の音痴が知られてしまいます。そこでシン
クレアはマスコミを買収し、フローレンスの信奉者だけを集めてコンサートを
開きます。その努力ときたら涙ぐましいほどです。いったいなぜ彼はそこまで
必死になるのか？
当初は、やはりお金のためだったのでしょう。何しろ彼はフローレンスのサ
ポートをする以外に特に仕事もしていません。おまけに、別宅に住み、そこに
は愛人をかこっています。しかし、やがて今はただお金のためにフローレンス
に尽くしているのではないことがわかってきます。
実は、フローレンスは最初の夫に梅毒をうつされ、50年以上もその後遺症に悩
まされています。そのためシンクレアとは最初から男女の関係がないようです。
そうした様々な悩みを抱えつつ、音楽だけを心のよりどころにして生きてきま
した。そんな彼女から音楽を取ったらどうなるのか。それを考えたら、シンク
レアならずとも、彼女を応援したくなってくるわけです。フローレンスが、ま
るで少女がそのまま大人になったようなキャラクターであることも、そんな気
持ちを増幅させます。
シンクレアは今では男女の関係を超えて、人間として彼女を愛し、2人は強い絆
で結ばれていることが、ドラマが進むにつれてわかってきます。何しろ愛人と
別れても、フローレンスを支えようとするのですから。
映画の終盤、自主制作したレコードが大評判になったフローレンスは、「カー
ネギーホールでコンサートを開きたい」と言って、自分で会場を予約してしま
います。シンクレアは今度もマスコミを買収するなど彼女の音痴がばれない工
作をするのですが、さすがに大会場で……。
ラストはフローレンスとシンクレアの絆を再確認するシーン。温かな余韻を残
してくれるエンディングです。
フローレンス役のメリル・ストリープはさすがの演技です。これまでも映画の
中で何度も見事な歌声を披露してきた彼女だけに、音痴の演技も堂に入ってい
ます。ラストの夢のシーンでは、ちゃんとしたソプラノも披露しています。
そして夫シンクレア役のヒュー・グラントも素晴らしい演技です。持ち前のプ
レイボーイ的キャラを生かしつつ、その奥にある深みをきちんと見せてくれま
す。
『クィーン』『あなたを抱きしめる日まで』などでおなじみのスティーヴン・
フリアーズ監督らしい熟練の演出もあって、誰もが楽しめる夫婦愛のドラマに
仕上がっています。楽しく笑って、ちょっぴり感動して、気持ちよく映画館を
後にできそうです。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（86点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2016年12月9日（金）ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午前11時35分の回
[「ま」のページ]
|