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永い言い訳
（2016年 日本）（上映時間2時間4分）
監督・脚本・原作：西川美和
出演：本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子、池松壮亮、
黒木華、山田真歩、松岡依都美、岩井秀人、康すおん、戸次重幸、淵上泰史、
ジジ・ぶぅ、小林勝也、山本康三、深津絵里
＊TOHOシネマズ新宿ほかにて全国公開
ホームページ http://nagai-iiwake.com/
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＜ストーリー＞
人気作家の津村啓として活躍する衣笠幸夫（本木雅弘）は、突然のバス事故に
より妻・夏子（深津絵里）を失う。おまけに、その時彼は不倫相手と密会して
いた。だが、妻への愛情を失っていた幸夫は、後ろめたさは感じつつも、素直
に悲しむことができない。そんなある日、幸夫は同じ事故で亡くなった妻の親
友・ゆき（堀内敬子）の夫・大宮陽一（竹原ピストル）と出会う。トラック運
転手として働く陽一は、幼い２人の子どもを抱えて途方に暮れていた。その様
子を目にした幸夫は、大宮家へ通い、兄妹の面倒を見るようになるのだが……。
＜レビュー＞
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妻の事故死に戸惑う夫の心の彷徨
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『ゆれる』『ディア・ドクター』『夢売るふたり』などの西川美和監督が、直
木賞候補になった自分の小説を映画化しました。妻を事故で失った男の心の軌
跡を描いています。
主人公は小説家の津村啓こと衣笠幸夫。冒頭は自宅で彼が美容師の妻・夏子に
散髪してもらうシーン。かつては作家志望の彼を夏子が食わせ、今では成功し
た幸夫との間に冷めたい空気が流れていることが、短い会話を通して伝わって
きます。
その後、バス事故によって夏子は死んでしまいます。その時、幸夫は不倫の真
っ最中。罪の意識を抱えつつも、すでに夫婦関係が冷え切っていたため、幸夫
は夏子の死を空虚な思いで受け止めるしかありません。それでも報道陣に囲ま
れたり、葬儀に臨めば、悲嘆にくれる悲劇の夫を演じます。
前半は繊細な心理描写が光ります。冒頭近くの幸夫と夏子のすれ違う心情。妻
の死によって袋小路に入り込んだ幸夫の心などを西川監督が見事に描写してい
ます。
まもなく幸夫は夏子とともに死んだ親友のゆきの夫・陽一と知り合います。そ
して、トラック運転手として忙しく働く陽一をサポートして、彼の息子の真平
と娘の灯の面倒を見るようになります。それは夏子への贖罪の気持ちなのか、
あるいはテレビにもたびたび登場する有名人としての偽善なのか。そのへんは
おそらく本人にもよくわかっていないのでしょう。
何にしても彼と2人の子供たちの日常が生き生きと描かれる中盤以降。子供のか
わいらしさと健気さが際立ちます。「アドリブなのか？」と思わせる自然な交
流が、幸夫との間で展開され思わず心がポカポカしてきます。
自己矛盾を抱えつつも、幸夫は子どもたちとの交流を通して他者との関わりの
大切さを知っていきます。そんな幸夫を西川監督は突き放すことなく、むしろ
温かな目線で見ています。それは幸夫だけでなく、すべての登場人物に注がれ
る目線でもあります。
終盤はいろいろと起きるのですが、ラスト近くの列車の中でのシーンなどを通
して、幸夫の変化を印象付けます。ラストもさりげなく彼のけじめを示唆して
終わります。しょうもないダメ男ではあるものの、もがき苦しんだ末に、よう
やく一歩を踏み出した幸夫。他者との関係をうまく築けない人が多い現代人に
とって、その姿は他人事ではないのかもしれません。
ダメ男を演じた本木雅弘の演技が素晴らしい。女にだらしないところなど、あ
まりにも情けなくて笑ってしまいます。武骨な陽一を演じた竹原ピストル
（『海炭市叙景』でもいい味出してたけど）の演技も見ものです。
名作『ゆれる』には及ばないかもしれませんが、個人的にはここ数年の西川作
品では最も好きな映画です。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（91点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2016年10月15日（土）ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午前11時45分の
回
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