二重生活


(2015年 日本)(上映時間2時間6分)
監督・脚本・編集:岸善幸
出演:門脇麦、長谷川博己、菅田将暉、リリー・フランキー、河井青葉、篠原
ゆき子、宇野祥平、岸井ゆきの、西田尚美、烏丸せつこ
*新宿ピカデリーほかにて全国公開
ホームページ http://nijuuseikatsu.jp/
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<ストーリー>
大学院で哲学を学ぶ白石珠(門脇麦)は、修士論文を書くにあたって、担当教
授の篠原(リリー・フランキー)から、ひとりの対象を追いかけて生活や行動
を記録する「哲学的尾行」を実践するように勧められる。戸惑いつつも、たま
たま見かけた隣人の石坂(長谷川博己)を尾行するようになる珠。立派な一軒
家に妻子と暮らし、理想的な家庭人に見えた石坂だったが、次第に秘密の顔が
明らかになる。珠はどんどん尾行にのめり込み、同棲中の恋人・卓也(菅田将
暉)との関係にも変化が訪れるのだが……。

<レビュー>
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尾行するターゲットを追い主人公の心の変化をとらえる映像
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小池真理子の小説の映画化です。監督の岸善幸は、もともとドキュメンタリー
畑の人で、最近はテレビドラマでも評価を得ています。そして、これが劇場デ
ビュー作。

主人公は大学院生の女の子・珠。修士論文を書くにあたって、担当教授の篠原
から「哲学的尾行」を勧められた彼女は、たまたま見かけた隣人の石坂を尾行
するようになります。

映画は誰かの人生を覗き見るようなものですが、この映画は映画の中でも他人
の人生を覗くという二重構造。それをドキュメンタリータッチの映像で描くも
のだから、面白くないはずがありません。

まあ、はっきり言って石坂のやっていることは、ありがちな下世話すぎる行動。
豪華な一軒家に妻子とともに暮らしながら、アララララ……てヤツです。にも
かかわらず、珠の目線で石坂の姿を臨場感たっぷりに見せていくので、つい引
き込まれてしまいます。

それと同時に珠の微妙な心情の揺れ動きも描かれます。劇中で珠自身が吐露す
る場面がありますが、彼女は自分が空っぽだと感じています。その空疎さが恋
人との関係にも影を落としています。そんな彼女の空虚な部分が尾行によって
埋められていき、自分の内面と向き合うことになります。表情のアップを中心
に、そんな珠の心理の変化を繊細に描く映像が出色です。

後半は珠の尾行がバレて大変なことになります。ヒリヒリするような対決シー
ンを経て、珠は今度は篠原も尾行します。実は、篠原にも大きな秘密があった
のです。

てな展開なのですが、篠原の尾行はもっと早く始めてもよかったかな。映画の
冒頭とラスト近くの衝撃的な出来事を考えれば、篠原の秘密をもう少し早いう
ちからクローズアップしてもよかったかも。原作モノなので、全体的にやや構
成がこなれていない感じもしました。

ともあれ、尾行という行為を通じて珠は成長します。人間だれしもマイナスの
心や、裏の顔を抱えていることを理解する珠。それによってようやく自分を肯
定した彼女のラストの表情が印象的です。

このドラマの背景には、「なぜ人は生きるのか」という哲学的テーマがありま
す。主人公を哲学を学ぶ設定にしたのもそのためでしょう。しかし、それを大
上段に構えるのではなく、尾行というあぶない行為を通して描いたところがユ
ニークです。

それをリアルな映像でスリリングに描いた岸監督の手腕はなかなかのもの。そ
の監督の期待に応えて、主人公の繊細な心理変化を演じ分けた門脇麦の演技も
印象的。ついでに篠原を演じたリリー・フランキーの存在感も光ります。一風
変わった映画ですが、見応えは十分だと思います。

≪ぽちの満足感≫
★★★☆☆(+1/2★)
(89点)

                             (田中ひろあき)

2016年6月26日(日)新宿ピカデリーにて。午後2時5分の回


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