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お父さんと伊藤さん
（2016年 日本）（上映時間1時間59分）
監督：タナダユキ
出演：上野樹里、リリー・フランキー、藤竜也、長谷川朝晴、安藤聖、渡辺え
り
＊新宿バルト9ほかにて公開
ホームページ http://father-mrito-movie.com/
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＜ストーリー＞
書店でアルバイトをしている34歳の彩（上野樹里）は、給食センターでアルバ
イトをする54歳の伊藤さん（リリー・フランキー）と同棲中。庭で家庭菜園を
するなどして、慎ましくも穏やかな日々を送っていた。そんなある日、長男夫
婦の家を追い出された彩の父親（藤竜也）が、彼らのアパートに転がり込んで
くる。こうして３人の共同生活がスタートするのだが……。
＜レビュー＞
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素直になれなくてもどこかでつながっている家族
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『百万円と苦虫女』『ふがいない僕は空を見た』『ロマンス』『四十九日のレ
シピ』など様々な映画を撮っているタナダユキ監督。今回は『四十九日のレシ
ピ』と同様に、家族をテーマにした小説を黒沢久子の脚色によって映画化して
います。
主人公の彩は34歳。書店でバイトしながら気ままに暮らしています。映画の冒
頭は、この彩の独白で、かつて同じコンビニのバイト仲間で「人生の落後者」
と思っていた54歳の伊藤さんと、どうしてくっついてしまったのかが軽妙に語
られます。ユーモアに満ちてホンワカしたムードが漂うこのシーンの空気感が、
映画全体を支配しています。
小さなアパートで同棲している彩と伊藤さん。現在彩は書店で、伊藤さんは小
学校の給食センターでバイト中。家庭菜園を楽しむなど穏やかに暮らしていま
す。そんな中、彩は兄から「自分の家にいる父親を預かってくれないか」と打
診されます。綾は断りますが、父親は勝手にアパートにやってきて「ここに住
む」と宣言します。
前半はそんな３人の奇妙な共同生活が描かれます。頑固で文句ばかり言ってい
る父親。綾も素直に接することができません。父の行動が怪しいと疑って尾行
してみたり、父が大事にしているダンボール箱の中身が気になって仕方なかっ
たり。親子ゆえ完全に突き放すこともできないけれど、受け入れることもでき
ない。そんな微妙な関係性が印象的です。
一方、意外に真っ当なアドバイスを送るのが伊藤さんです。第三者の客観的目
線も相まって、父と娘の接着剤的な役割を果たします。おまけに電動工具の話
などで父親と伊藤さんは意気投合して、２人の間に不思議な友情も生まれてし
まいます。それを見ていた彩が、父親との関係についてあれこれ考えてしまう
展開も面白いところ。
比較的淡々とドラマは進んでいきますが、後半のクライマックスでは驚きの出
来事が起きます。父の実家で否応なく向き合うことになる、父と彩と兄。そこ
でも伊藤さんが絶妙なふるまいをします。
とはいえ、それで簡単に親子が和解するほど甘くはありません。明確な決断が
できずに宙ぶらりんのままの彩。ところが、父は自ら大きな決断をしてしまい
ます。そこで伊藤さんの力強い言葉に背中を押される彩。その背中が、何やら
キラキラと輝いていたのでした。
この映画を通して伝わってきたのは、たとえ親子でもストレートに心が通じ合
うことなどめったにないという事実。そして同時に、ギクシャクしつつも親子
はどこかでつながっているという事実。それが適度な笑いを交えて描かれてい
て、最後は心が温かくなりました。荒唐無稽な展開もあるものの、リアリティ
は失われていないので、素直に心に響いてきました。
あまり表情を変えずに感情を表現した上野樹里、さすがの存在感の藤竜也、そ
して何よりもリリー・フランキーの演技が素晴らしい！ まさに適役でした。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（91点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2016年10月9日（日）渋谷シネパレスにて。午後3時25分の回
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