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リップヴァンウィンクルの花嫁
（2016年 日本）（上映時間3時間）
監督・脚本・原作：岩井俊二
出演：黒木華、綾野剛、Cocco、原日出子、地曵豪、毬谷友子、和田聰宏、佐生
有語、夏目ナナ、金田明夫、りりィ
＊テアトル新宿ほかにて公開
ホームページ http://rvw-bride.com/
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＜ストーリー＞
派遣教員として働く皆川七海（黒木華）は、ＳＮＳで知り合った鶴岡鉄也とい
う男性と結婚する。結婚式で新婦側の招待客が少ない七海は、"なんでも屋"の
安室（綾野剛）にサクラ役の手配を頼む。だが、その後、周到な罠にはめられ
て義母から浮気を疑われ、家を追い出されてしまう。行き場もなく途方に暮れ
た七海に、安室は大きな屋敷での住み込み家政婦の仕事を紹介する。七海はそ
こで、真白（Cocco）と２人で暮らすようになり、互いに心を通わせていくのだ
が……。
＜レビュー＞
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詩的な映像で綴られる転落する女性の寓話
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『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』『花とアリス』などの岩井
俊二監督久々の長編実写映画です。
主人公は派遣教員の七海。教員だけでは食べていけずコンビニでバイトしてい
ます。そんな彼女はＳＮＳで知り合った男性と結婚します。しかし、結婚式の
新婦側親族が足りなかったため、ネットを通じて紹介されたサクラ役で数合わ
せします。しかし、それが新郎側にばれ、さらに罠にはめられて浮気を疑われ
て離婚されてしまいます。こうして彼女は行き場所をなくします。
というわけで、前半は七海の転落が容赦なく描かれます。七海はあまりにも無
防備でウブです。そして友達もあまりなく、ネットを無条件に信用しています。
そんな彼女が頼るのが安室行升（あむろゆきます）という何でも屋。これって、
どう考えても「機動戦士ガンダム」のセリフからとった名前ですよねぇ。名前
通りに怪しいやつで、普通の人なら警戒するはず。ところが、七海はまったく
何の疑念も抱かないのです。
そういう七海を見ていると、同情するよりも、むしろイラついてきます。もち
ろん岩井監督はわざとそういうキャラにしているのでしょう。これは何かを仮
託しているのだろうか。天使の受難を描いたのか？ あるいはネット社会の闇
を描いたのか？
とはいえ、目の前に展開するのは、過去の岩井作品以上に美しく詩的な映像
（特に光の使い方が絶妙）と音楽。それを観ているだけで3時間という長尺も気
になりません。
そして中盤以降、七海は安室から大きな屋敷での住み込み家政婦の仕事を紹介
されます。月給は何と100万円！ 七海はそこで、真白というもう一人のメイド
と２人で暮らし始めます。
そこからは七海と真白の交流が描かれます。真白は一応女優というのですが、
何やら裏がありそう。それでも２人は次第に心を許し合うようになります。レ
ズビアン的な色彩も帯びる２人の交流のシーンは出色。特にラスト近くでウェ
ディングドレスを着てはしゃぐ姿には、ただ見とれるばかりでした。しかし、
そこで七海の秘密が露見し、意外なラストへと進んでいきます。
七海は真白と出会い変化します。ただし、その成長が明確に示されるわけでは
ありません。それでもラストには一筋の光が提示されます。
全体を通してリアルさは感じられません。むしろ寓話といったほうがよいでし
ょう。何しろ安室の正体は最後まで謎のままだし、その他にも常識的とはズレ
た要素が見られます。
そういえば、タイトルの「リップヴァンウィンクル」とは、アメリカの寓話的
な物語だとか。いったいこの寓話を通して、岩井監督は何を言いたかったのか。
無防備に流されて生きる日本人への警告？ ネット社会にどっぷりつかる現代
への警鐘？ 深読みしようと思えばいくらでも深読みできそうな寓話です。
でも、まあこの映画の最大の見どころは黒木華の演技でしょうね。正直、今ま
での彼女の演技には、個人的にそんなに惹かれるものがなかったのですが、今
回は素晴らしい！ 様々な感情を的確に表現するその演技に胸を揺さぶられま
した。
そして真白役の歌手のCoccoにも脱帽。以前に観た塚本晋也監督の『KOTOKO』の
演技も見事でしたが、今回も存在感たっぷり。この２人の演技と映像だけで観
る価値ありの映画です。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（92点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2016年5月3日（火）テアトル新宿にて。午後3時の回
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