ルーム(ROOM)


(2015年 アメリカ)(上映時間1時間58分)
監督:レニー・アブラハムソン
出演:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョーン・アレン、シ
ョーン・ブリジャース、ウィリアム・H・メイシー、マット・ゴードン、アマ
ンダ・ブルジェル、ジョー・ピングー、トム・マッカムス、ランダル・エド
ワーズ
*TOHOシネマズ新宿ほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://gaga.ne.jp/room/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

<ストーリー>
5歳の誕生日を迎えたジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)は、狭い部屋で母
親のジョイ(ブリー・ラーソン)と暮らしていた。部屋には天窓しかなく、ジ
ャックはジョイから部屋の外には何もないと教えられていた。2人は、ある男に
よって施錠された部屋に監禁されていたのだった。やがてジョイはここから脱
出するために、ついに行動を開始するのだったが……。

<レビュー>
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2つの異なる感動が味わえる受難の母子の解放劇
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

アイルランド出身の作家エマ・ドナヒューの小説「部屋」の映画化です。第88
回アカデミー賞で作品賞ほか4部門にノミネートされ、主演のブリー・ラーソン
が主演女優賞を獲得しました。

映画の冒頭は、ごく普通の母親ジョイと幼い息子ジャックの姿が描かれます。
しかし、どうも様子が変です。ジョイはジャックに「部屋の外には何もなくて、
部屋の中だけが真実だ」と教えています。そうです。2人はこの部屋から出るこ
とができません。ジョイは7年前にある男に誘拐され、この部屋に監禁され、こ
こでジャックを生んだのでした。

以前、脱出に失敗したことのあるジョイですが、男が失業して自分たちを持て
余し始めたこともあって、再び脱出を決意します。ジャックにある作戦を伝授
して、ついに脱出を試みるジョイですが……。

このストーリーを聞けば、脱出劇がドラマのクライマックスだと思うはず。そ
こに至るまでに、誘拐される前のジョイのキラキラした青春や、ジャックの誕
生前後の日々を回想したりして。

ところが、この映画では脱出劇を終盤ではなく、中盤に持ってきています。も
ちろん、そこはかなりスリリングだし、いったん離れた母子が再会するシーン
では感動の涙必至なのですが、それはあくまでも一つのターニングポイント。

そこから何が描かれるかというと、無事に脱出した2人が部屋の外の世界に適応
できず、悩み苦しむ日々が描かれます。

何しろジョイにとっては7年ぶりの社会への復帰。その間に父母は離婚していた
りして、環境は大きく変化しています。また、特異な事件の被害者となった彼
女に対して、マスコミなどから好奇の目が向けられ、彼女は精神的に疲弊して
いきます。一方、ジャックにとってはすべてが初めて目にし、体験する世界。
すぐに受け入れられるわけがありません。

2人の苦難を見ているうちに、犯人への怒りがふつふつと湧いてきますが、この
映画の視点はそこにとどまりません。傷ついたジョイの心の再生と、初めての
世界に溶け込んでいくジャックの成長をキッチリとスクリーンに刻み付けます。
それは2人が物理的に自由になっただけでなく、心も解放されるまでの道のりで
す。

それを象徴するラストシーン。かつての記憶と対峙する2人を抑制的に描き、新
たな世界に歩き出そうとする姿を温かく見つめています。中盤の脱出劇とは違
う静かな感動が味わえるラストです。

主演のブリー・ラーソンは、少年少女の保護施設を舞台にした『ショート・
ターム』(2013年)でも素晴らしい演技を披露していましたが、今回も深みの
ある演技を見せています。そして、幼い息子役のジェイコブ・トレンブレイの
カワイさも特筆もの。

レニー・アブラハムソン監督の手腕も忘れてはいけません。お面をかぶったミ
ュージシャンを描いた『FRANK フランク』(2014年)で注目された監督
ですが、今回も全編に才気を感じさせます。特にジャックが部屋から出て、初
めて見た外の世界を彼の目線で描いた映像や、彼が祖母や友達と遊ぶ時のみず
みずしいシーンなどが印象的でした。

というわけで、中盤と終盤で2つの異なる感動が味わえる映画。まあ、とにかく
余韻の残る素晴らしい作品ですので、ぜひ。

≪ぽちの満足度≫
★★★★☆(+1/2★)
(96点)
                             (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2016年4月10日(日)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時30分の回


[「る」のページ]