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山河ノスタルジア（山河故人／MOUNTAINS
MAY DEPART）
（2015年 中国・日本・フランス）（上映時間2時間5分）
監督・脚本：ジャ・ジャンクー
出演：チャオ・タオ、チャン・イー、リャン・ジンドン、ドン・ズージェン、
シルヴィア・チャン
＊Bunkamuraル・シネマほかにて公開
ホームページ http://www.bitters.co.jp/sanga/
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＜ストーリー＞
1999年、山西省・汾陽（フェンヤン）。小学校教師のタオ（チャオ・タオ）は、
炭鉱労働者のリャンズー（リャン・ジンドン）と実業家ジンシェン（チャン・
イー）の２人から想いを寄せられる。やがてジンシェンと結婚したタオは息子
ダオラーを授かる。2014年、タオはジンシェンと離婚し、汾陽で一人で暮らし
ていた。ある日、タオの父が亡くなり、父親と上海で暮らしていたダオラーが
葬儀に出席するために戻ってくる。タオはそこでダオラーがオーストラリアに
移住することを知らされる。2025年、オーストラリア。19歳になったダオラー
（ドン・ズージェン）は、中国語も話せなくなり父との間に確執が生まれる。
そんな中、母親と同世代の中国語教師ミア（シルヴィア・チャン）と出会うの
だが……。
＜レビュー＞
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過去・現在・未来を通して描かれる人生にとって大切なもの
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世界的に評価の高い中国のジャ・ジャンクー監督の映画です。
この映画は、1999年、2014年、2025年という３つの時代を、それぞれ違ったサ
イズの映像で描いています。
1999年。タオは炭鉱労働者のリャンズーと実業家のジンシェンの２人に好意を
寄せられ、最終的にジンシェンを選びます。そして、やがて息子のダオラー
（米ドルからとった名前）が生まれます。
続いて描かれるのは2014年の出来事。ジンシェンと離婚し、ダオラーの親権を
奪われて１人で暮らすタオ。まもなく父が亡くなり、ダオラーが葬儀のために
戻ってきて、つかの間の母子の再会となります。しかし、そこでタオはダオ
ラーがオーストラリアに移住することを知ります。
最後は近未来の2025年。オーストラリアに移住して19歳になったダオラーは、
中国語もできず父親との確執を抱えます。そんな中、母親と同世代の中国語教
師ミアと知り合います。
最初のパートで目に付くのは、１人の女と２人の男の微妙な関係性の描写。揺
れる思いが繊細にスクリーンに刻まれます。とはいえ、要するに三角関係なわ
けで、ここだけを見ればどうってことのない映画です。
次のパートでは、タオとダオラーの親子の絆が描かれます。短時間ながら、一
つのイヤホンで同じ音楽を聞くシーンなどで的確に見せていきます。（ただし、
かつてタオが振ったリャンズーの帰還が描かれるものの、こちらはなんだか中
途半端な気がしました。）
最後のパートでは、母の記憶も薄れ、アイデンティティを見失ったダオラーの
心の漂流と、ミアとの出会いによって変化する心理が繊細に描写されます。そ
して、ラストでは母子の奇跡のような共鳴が生まれ、２人の未来にかすかな希
望の灯が灯されます。この最後のパートがこの映画の白眉。
ジャ・ジャンクー監督の映画といえば、中国の社会的事情を投影させるのが昔
からの特徴。今回も経済成長、石炭から石油へのエネルギーの転換、貧富の格
差、移住者たちのアイデンティティの喪失など様々な問題を背景に織り込んで
います。
ただし、それらを背景の枠内に塗りこめて、むしろ全体を普遍的なドラマとし
て昇華させているのが最近の特徴。特に本作は、過去・現在・未来と時代が変
わり、どんなに状況が変化しても、けっして変わることのない親子の絆や母の
思いなどを、美しい映像とともに描き込んでいます。そこはかとない感動とと
もに、人生にとって本当に大切なものかは何かを考えさせてくれる映画です。
オープニングとラストを、ペット・ショップ・ボーイズの「GO WEST」をバック
に主人公タオのダンスで飾る構成。母子のキーになる音楽として使われるサ
リー・イップの「珍重」も効果的です。
ジャ・ジャンクー監督の映画は、デビュー作『一瞬の夢』以来ほとんど観てい
ますが、この映画を観て円熟の境地に近づきつつあることを実感しました。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（90点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2016年5月6日（金）Bunkamuraル・シネマにて。午前10時30分の回
[「さ」のページ]
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