太陽

（2015年　日本）（上映時間2時間9分）
監督：入江悠
出演：神木隆之介、門脇麦、古川雄輝、綾田俊樹、水田航生、高橋和也、森口
瑤子、村上淳、中村優子、鶴見辰吾、古舘寛治
＊角川シネマ新宿ほかにて全国公開
ホームページ　http://eiga-taiyo.jp/
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＜ストーリー＞
21世紀初頭の日本。バイオテロによるウイルス拡散で世界の人口は激減し、生
き残った人類はウイルス感染を克服した新人類「ノクス」と旧人類「キュリ
オ」に二分した。ノクスは高次元の肉体と知能を持つが、太陽の下では生きら
れない。キュリオは太陽の下で生きられるが、ノクスに管理され、貧しい生活
を強いられていた。ある時、キュリオの村でノクスが惨殺される事件が起こり、
経済封鎖を受ける。それから10年、キュリオの青年・奥寺鉄彦（神木隆之介）
はノクスの世界に憧れ、生田結（門脇麦）はノクスへの憎しみを募らせていた。
そんな中、ノクスへの転換手術の募集が再開されるのだが……。

＜レビュー＞
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ウイルス感染によって二分した近未来社会に現代社会を投影
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前川知大が主宰する劇団イキウメ（すげぇー名前！）の舞台劇を『ＳＲ　サイ
タマノラッパー』『ジョーカー・ゲーム』の入江悠監督が映画化した近未来Ｓ
Ｆです。

ウイルス拡散で人口が激減した日本が舞台。そこでは新人類ノクスと旧人類キ
ュリオが分かれて暮らしています。ノクスは高次元の肉体と知能を持つものの、
太陽の光を浴びられません。一方、キュリオは太陽のもとで暮らせるものの、
ノクスに管理され、貧しい生活を送っています。しかも、10年前にキュリオの
村でノクスが殺された事件をきっかけに、経済封鎖を受けています。それから1
0年後に経済封鎖が解けて、ノクスへの転換手術の募集が再開されるところから
ドラマが始まります。

こういう二分化された世界という設定は、ＳＦでは特に珍しくありません。た
だし、その近未来社会に現代社会を強烈に投影させているのが、この作品の優
れたところ。超近代化されたノクスの都市と、一昔前の日本の農村のようなキ
ュリオの村。それは都市の繁栄と地方の閉塞感、貧富の格差、高度に管理され
た社会など、現在社会をそのまま落とし込んだような世界です。

ノクスたちがキュリオたちを消毒するシーンなんて、まるで占領下の日本でシ
ラミ退治のDDT散布をしているみたいですもの。絵空事とは思えないんですよね。

でもって、その中で中心的に描かれるのは、キュリオの村の幼なじみの男女。
鉄彦と結。鉄彦は村に嫌気がさしてノクスの世界に憧れています。そしてノク
スへの転換を希望し、ノクスの駐在員の青年と親しくなります。それに対して
結は、かつて母が父と自分を捨ててノクスに転換したこともあって、ノクスに
憎しみを持っています。

そんな２人が厳しい状況の中で、もがき、苦しみ、なんとか前に進もうとする
姿が描かれます。いわばこれは近未来ＳＦであるのと同時に、青春ストーリー
でもあるわけです。

とはいえ、ありがちな青春ストーリーのような、さわやかな展開にはなりませ
ん。結は本人の意思に関係なく、父親によってノクスへの転換申請書を提出さ
れてしまいます。さらに、今はノクスになっている母と会い、少しずつ心が変
化していきます。

また、村には10年前にノクスを殺した男が舞い戻り、それがもとでとんでもな
いことになってしまいます。

ラストは単純なハッピーエンドではありません。これから観る方のために詳細
は伏せますが、結の変化を通して苦く重たいものを残します。ただし、それで
終わることなく、鉄彦とノクスの青年の友情を通して、ほのかな希望も感じさ
せてくれます。

気になるのは、大声で喚くシーンなどいかにも舞台劇のような部分がところど
ころで目立つこと。脚本には入江監督と前川知大がクレジットされていますが、
そのへんはもうちょっと映画寄りに書き直してほしかったです。

とはいえ、神木隆之介、門脇麦（やっぱり、この子、光るものがありますね）
などの若手に加え、脇役のベテラン俳優も存在感があるし、なかなか面白い映
画でした。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（88点）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（田中ひろあき）

〔鑑賞データ〕
2016年5月11日（水）角川シネマ新宿にて。午前11時の回

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