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歌声にのった少年（YA
TAYR EL TAYER）
（2015年 パレスチナ）（上映時間1時間38分）
監督：ハニ・アブ・アサド
出演：カイス・アタッラー、ヒバ・アタッラー、アハマド・カセィーム、アブ
ダルカリーム・アブバラカ、タウフィーク・バルホーム、ディーマ・アワウダ、
アハマド・ロッホ、サーベル・シリーム、ナディーン・ラバキー、ハニ・ア
ブ・アサド、ムハンマド・アッサーフ
＊新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開。全国順
次公開
ホームページ http://utagoe-shonen.com/
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＜ストーリー＞
紛争の絶えないパレスチナ・ガザ地区。歌が好きで、「スター歌手になって世
界を変える」ことを夢見るムハンマド少年は、姉ヌールや友達とバンドを組み
町で歌っていた。ところが突然、ヌールは重い腎臓病に倒れてしまう。ムハン
マドは懸命に手術代を稼ごうと奔走するが、ヌールは十分な医療を受けられな
いまま亡くなる。やがて成長したムハンマドは、姉との約束を果たすべく、エ
ジプトのオーディション番組「アラブ・アイドル」への出場を決意するのだが
……。
＜レビュー＞
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スター誕生物語を通して描くパレスチナの過酷な現実と希望
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この映画、早い話がスター誕生物語です。無名の少年が成長して、オーディシ
ョン番組に出てスターになります。しかし、ただのスター誕生物語にはなりま
せん。なぜなら彼の出身地はパレスチナのガザ地区だから。そこはイスラエル
との紛争のせいで苦境が続く場所です。
主人公はガザの少年ムハンマド。前半は彼や姉のヌール、そして友達たちの日
常が描かれます。いかにも子供らしい生き生きとした日常です。みんなでガラ
クタで作った楽器を手にバンド活動をしたり、本物の楽器が欲しくなって闇商
人にだまされたり、色々なことが起きます。そんな中で印象的なのが、多くの
子供たちが「夢なんかかないっこない」と希望を捨てている現状です。それが
ガザの現実なのです。
しかし、ムハンマドと姉のヌールは違います。「スター歌手になって世界を変
える」という夢を持ち、必ずそれを実現しようと努力します。ところが、ある
日ヌールは腎臓病に侵され、透析生活を余儀なくされます。本当は手術したほ
うがいいのですが、お金がなくてそれができません。そして、とうとう彼女は
死んでしまいます。
後半は、そうした過去を背負いつつ成長し、夢をあきらめきれない青年ムハン
マドが登場します。彼はタクシーの運転手をしながらも、歌手になる道を探り
ます。狙いを定めたのは、人気オーディション番組「アラブ・アイドル」。
「アメリカン・アイドル」の中東版ですね。しかし、そこには様々な困難が待
ち受けています。開催場所のエジプトに行くことさえままなりません。はたし
て、ムハンマドと亡き姉の夢はかなうのでしょうか。
後半で挫折しそうなムハンマドを励ますのは、幼い頃に姉と同様に腎臓を患っ
た女性。そして、何度も襲うあわやのピンチには、奇跡的な出来事が次々に起
きます。国境の検問越えでの思わぬ助っ人、オーディション会場での意外な厚
意など。正直なところ、「そりゃ都合よすぎでしょう」とツッコミたくなるの
ですが、なんとこの話は実話がベースだそうです。もちろん細部は脚色してい
るのでしょうが、それにしてもビックリの話です。
同時にそうしたドラマを通して、パレスチナの苦境がくっきりと描かれます。
特に後半に登場する2012年のガザは、イスラエルの爆撃によって廃墟だらけで
す（実際にガザでロケをしたらしい）。
終盤はムハンマドがオーディションにチャレンジし、勝ち抜いていく姿が描か
れます。ここはワクワク感たっぷりのエンタメ性の高い展開。しかし、その後、
彼はプレッシャーに押しつぶされそうになります。何しろ彼にはガザの人々の
期待が一身にかかっているのです。
ラストは実際の映像を使って、ムハンマドの夢の結末を描きます。それまでガ
ザの苦境をキッチリと描いてきたおかげで、希望の光がより強く輝きます。
『パラダイス・ナウ』『オマールの壁』などで、パレスチナの現実を描いてき
たハニ・アブ・アサド監督。今回は、エンタメ性の強いスター誕生物語を紡ぎ
つつ、それを通してパレスチナの過酷な現実を示します。エンタメ性と社会性
が絶妙のバランスで配された作品です。
ムハンマドが歌うアラブ音楽がなかなか良い味を出しています。前半で登場す
るオーディションで選ばれたというガザの子供たちも、躍動感あふれる演技を
披露しています。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（90点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2016年9月24日（土）ヒューマントラストシネマ有楽町にて。午前11時50分の回
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