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午後８時の訪問者（LA
FILLE INCONNUE）
（2016年 ベルギー・フランス）（上映時間1時間46分）
監督・脚本・製作：ジャン＝ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
出演：アデル・エネル、オリヴィエ・ボノー、ジェレミー・レニエ、ルカ・ミ
ネラ、オリヴィエ・グルメ、ファブリツィオ・ロンジョーネ
＊ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて公開。全国順次
公開
ホームページ http://www.bitters.co.jp/pm8/
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＜ストーリー＞
若き女医のジェニー（アデル・エネル）は、小さな診療所に勤務していたが、
大きな病院への採用が決まっていた。ある日、診療所のベルが鳴り、研修医の
ジュリアンがドアを開けようとするが、ジェニーは診療時間を過ぎていたため
制止する。翌日、身元不明の少女の遺体が見つかる。診療所の昨夜の監視カメ
ラの映像にはその少女が助けを求める姿が映っていた。きちんと応対していれ
ば少女は死ななかったと自分を責めるジェニーは、彼女の身元を突き止めよう
と聞き込みを始めるのだが……。
＜レビュー＞
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自責の思いで死んだ少女の身元を探る女医の迷い
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『ある子供』『息子のまなざし』『サンドラの週末』などで知られるジャン＝
ピエール＆リュックのダルデンヌ兄弟。彼らの監督作品の多くは、少年犯罪、
失業、貧困など社会問題を扱っています。今回も貧困や移民などの問題が描か
れるのですが、直接的なメッセージはありません。むしろ人間の本質にグイグ
イと迫る映画です。
主人公は若い女医のジェニー。小さな診療所に雇われています。そんな中、け
いれんで運ばれてきた少年を見て、ショックで固まってしまった研修医のジュ
リアンに対して、「患者に寄り添いすぎるな」と指導します。まもなく診療所
のベルが鳴り、ジュリアンが応対しようとしますが、ジェニーは「もう診療時
間を1時間も過ぎているから出なくていい！」と制止します。
そして彼女は、まもなく勤務する予定の大きな病院に向かい、そこのスタッフ
の大歓迎を受けて満面の笑みを浮かべます。
てなことを聞くと、この女、医師として優秀でも人間味のない、典型的なエ
リート女に思えるかもしれません。しかし、その直後、彼女は今まで担当して
いた子供の患者から感謝されて、思わず涙ぐんでしまうのです。こいつ、ホン
トはいいヤツじゃん！
そうです。ジェニーはホントはいいヤツなのです。しかし、同時に医師として
出世のステップに足を乗せています。その微妙なバランス設定が、その後のド
ラマをより深いものにします。
翌日、診療所の近所で死体が見つかり、それが昨夜、診療所のベルを鳴らした
少女であることがわかります。「もしもあの時。ちゃんと応対していたら、少
女は死ななくて済んだのでは？」。そう思ったジェニーは、自責の念から、そ
の少女の写真を手に彼女の身元を探ろうとします。
ミステリー仕立てでのドラマですが、出色なのが人物の心理描写です。ダルデ
ンヌ兄弟お得意の、手持ちカメラを駆使したドキュメンタリータッチの映像で、
ジェニーの心の揺れ動きをはじめ様々な人物の心理をリアルに切り取ります。。
事件の鍵を握るのはある一家。迷走を重ねる彼らの屈折した心理も、巧みに描
き出されます。また、研修医を断念したジュリアンが抱えた秘密も、ドラマに
厚みを加えています。
このドラマを引っ張る原動力のひとつは、「なんでジェニーはそんなに必死で
真相を追うの？」という疑問。それについて、明確な答えが提示されるわけで
はありません。しかし、彼女の心が揺れ動いていたのは確か。自分の進む道に
自信が持てず、迷いながらもそれを振り切ろうとして、ひたすら前に突き進ん
だように思えます。
そんなジェニーがたどり着いたのは、不確実ながらも希望の見える未来。ラス
トで老女を優しくサポートする彼女の姿が、それを物語っているのではないで
しょうか。
いかにもダルデンヌ兄弟らしい映画。地味ながら、味わい深さは一級品です。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（87点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2017年4月8日（土）＊ヒューマントラストシネマ有楽町にて。午後2時の回
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