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ハイドリヒを撃て！「ナチの野獣」暗殺作戦（ANTHROPOID）
（2016年 チェコ・イギリス・フランス）（上映時間2時間）
監督・脚本・製作：ショーン・エリス
出演：キリアン・マーフィ、ジェイミー・ドーナン、シャルロット・ル・ボン、
アンナ・ガイスレロヴァー、ハリー・ロイド、トビー・ジョーンズ、マルチ
ン・ドロチンスキ、ビル・ミルナー、サム・キーリー、イジー・シメック、ヴ
ァーツラフ・ネウジル、ショーン・マーホン、デトレフ・ボーズ
＊新宿武蔵野館ほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://shoot-heydrich.com/
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＜ストーリー＞
第2次世界大戦中、ナチスが支配するチェコに２人の軍人ヨゼフ・ガブチーク
（キリアン・マーフィ）とヤン・クビシュ（ジェイミー・ドーナン）がパラシ
ュートで降り立つ。彼らはロンドンに本拠を置くチェコ亡命政府の密命を帯び
ていた。それは、ナチスのナンバー３といわれたラインハルト・ハイドリヒの
暗殺だった。２人はチェコ国内のレジスタンスの協力で、ハイドリヒの行動を
調べて狙撃する機会をうかがう。一方、２人は任務の過程で知り合った女性と
親しくなるのだが……。
＜レビュー＞
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破格の緊張感と葛藤の中で描かれるナチス高官暗殺作戦
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第２次世界大戦の史実を基に、"エンスラポイド（類人猿）作戦"という暗殺計
画を描いた作品です。
当時のチェコはナチスが実効支配していて、そこにはヒトラー、ヒムラーに次
ぐ、ナンバー３といわれたナチス親衛隊大将ラインハルト・ハイドリヒがいま
した。彼はユダヤ人大量虐殺に大きくかかわっていました。
そんなチェコに、ヨゼフ・ガブチークとヤン・クビシュという２人の軍人がパ
ラシュートで降り立ちます。彼らはロンドンに本拠を置くチェコ亡命政府から
の密命を帯びていました。それがハイドリヒの暗殺を謀る"エンスラポイド（類
人猿）作戦"です。
この映画は最初から最後まで破格の緊張感に包まれています。ヨゼフとヤンが
パラシュートで降り立ったのち物陰で休んでいると、そこに現地の住人らしき
男が現れて、「隠れ家を知っている。明日プラハまで送ってやる」と２人を案
内します。ところが、彼は隙を見て２人のことをナチスに密告しようとします。
そうです。同じチェコ人といえども油断はできません。ナチス支配下だけに、
ナチスに味方する者も多く、敵なのか味方なのかすぐにはわかりません。そん
な状況がすさまじい緊張感を生み出すわけです。
同時にヨゼフとヤンの葛藤も、このドラマの大きなテーマです。たとえ、彼ら
がハイドリヒの暗殺に成功したところで、すぐにナチスが滅亡するわけではあ
りません。むしろ、過激な報復作戦を仕掛けてくる可能性があります。もしか
したら、それによって祖国が消えてしまうかもしれません。
チェコ国内に息をひそめて活動していたレジスタンスたちも、それを心配して
います。そのため、レジスタンスのリーダーは、ハイドリヒ暗殺に反対します。
ヨゼフとヤンも、そのことに対する葛藤はもちろんあります。とはいえ、軍人
として命令を受けた２人にとって、作戦を遂行する以外に道はありません。
何とかレジスタンスの協力を取り付けた２人は、彼らに紹介された家に身を隠
し、ハイドリヒの行動を徹底的に調べて狙撃する機会をうかがいます。その過
程では、「女と歩いていたほうが疑われないから」という理由で協力してもら
った２人の女性とのロマンスも生まれます。
彼女たちと幸せになりたい思いはあるものの、暗殺計画がこのまま進行すれば
その思いをかなえるのは困難でしょう。それでも前に進むしかないヨゼフとヤ
ン。これもまた大きな葛藤です。つまり、このドラマは葛藤のドラマであり、
それがドラマ全体をググッと引き締めているわけです。
ちょっとモノクロっぽい荒々しい映像も、この映画にピッタリです。重厚な感
じがするのと同時に、当時のナチス支配下のプラハの空気を的確に表現してい
るように思えます。
緊張感が最高潮に達するのが、暗殺決行の場面です。1942年5月27日、ヨゼフと
ヤンはついにハイドリヒを狙撃します。そのあたりの経緯は、まるでスパイ映
画のような面白さです。鏡を使った作戦などディテールも凝っています。
ただし、ドラマはそれで終わりません。そこからが、さらに壮絶な戦いの始ま
りです。危惧した通りに、ナチスは激烈な報復を仕掛け、犯人探しに血眼にな
ります。祖国を救うために戦ったはずのヨゼフとヤンですが、それが逆に多く
の仲間を死に追いやったというのが何とも皮肉です。そして彼ら自身もどんど
ん追い詰められていきます。
終盤は教会を舞台にした、あまりにも無謀な銃撃戦。多勢に無勢で逃げ場もな
い中で、最後の最後まで戦いをやめないヨゼフとヤンたちの姿からは、歴史に
翻弄された男の物悲しさが漂います。ずば抜けた緊張感を持つサスペンスであ
るのと同時に、歴史の不条理さが胸を打つ作品です。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（90点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2017年8月19日（土）新宿武蔵野館にて。午後12時5分の回
[「は」のページ]
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