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彼女の人生は間違いじゃない
（2017年 日本）（上映時間1時間59分）
監督・原作：廣木隆一
出演：瀧内公美、高良健吾、柄本時生、光石研、戸田昌宏、安藤玉恵、波岡一
喜、麿赤兒、蓮佛美沙子、小篠恵奈、篠原篤、毎熊克哉、趣里
＊新宿武蔵野館ほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://gaga.ne.jp/kanojo/
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＜ストーリー＞
福島の仮設住宅で父の修（光石研）と2人で暮らすみゆき（瀧内公美）。市役所
に務める彼女は週末になると高速バスで東京に向かい、デリヘルで働いていた。
津波で妻を亡くした修は、土壌汚染で農業ができず、補償金をパチンコにつぎ
込む毎日だった。一方、みゆきの同僚・新田（柄本時生）は、被災地の現状を
卒論にしたいという東京の女子大生の取材を受けるが、当時の状況について言
葉を詰まらせてしまう……。
＜レビュー＞
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あの震災が残した傷跡は今も癒えていない
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廣木隆一監督が、故郷・福島を舞台に書き下ろした処女小説の映画化（脚本は
加藤正人）です。
このドラマの背景には東日本大震災があります。主人公のみゆきは震災の津波
で母を亡くし、今は仮設住宅で父の修と2人で暮らしています。平日は市役所に
勤務するみゆきですが、週末になると「英会話教室に行く」と修に嘘をついて、
高速バスに乗って東京に出て、デリヘル嬢として働いています。
というわけで、彼女を主人公にしたドラマではあるものの、それ以外の人物の
ドラマも重要な位置を占めています。妻を亡くした修は、土壌汚染で農業がで
きず、酒を飲み補償金をパチンコにつぎ込む毎日です。みゆきに「仕事を探し
たら！」となじられても、何もできずにいます。
また、みゆきの同僚の新田は、母が宗教にはまるなどして家によりつかず、幼
い弟の面倒を見ながら暮らしています。そんな中で、被災地の現状を卒論にし
たいという東京の女子大生の取材を受けますが、当時の状況についてのあまり
にもストレートな質問に言葉を詰まらせてしまいます。
それ以外にも、もがき苦しみながら暮らす福島の人々の様々なエピソードが登
場します。みゆきたちの仮設住宅の隣人で、原発で除染作業をする多忙な夫を
持つ妻が精神を病むエピソード。被災者にうまく取り入って高額の壺を売りつ
けようとする男のエピソード。死期が迫る妻のために墓を用意してやろうとす
る老人のエピソードなどなど。
そうした人物たちの繊細に揺れ動く心情を、廣木作品ではおなじみの手持ちカ
メラによる長回しの映像などで、リアルに、そして静かに切り取っていきます。
彼らを見ているうちに、あの日に被災者がいかに多くのものを失い、すべての
日常が一変し、今もその傷がほとんど癒えていないことに慄然とさせられまし
た。
彼らが抱えた喪失感は、みゆきの行動にも反映しています。なぜ彼女がデリヘ
ルで働いているのか、明確な理由は明かされないのですが、それでも大きな喪
失感を抱えたまま、自らの心身を傷つけることでしか癒されない悲しみが、そ
こかしこににじみ出ています。
そして、実際に福島で撮影したらしい被災地のショットの数々も、胸にグサリ
と突き刺さります。特に修が亡き妻の服を取りに、立ち入り禁止区域に入った
際の映像は衝撃的です。震災前の生活が、そのままフリーズして朽ち果てたよ
うな街の風景を通して、あらためてあの震災の重さを感じさせられました。
同時に、みゆきが福島と東京を行き来する設定によって、被災地と東京の温度
差の違いにも気づかされます。寒々とした被災地の映像と、華やかな東京・渋
谷の映像の対比が、心に苦いものを残していきます。
ただし、ラストには微かな希望も感じさせます。みゆきは、元カレの山本との
再会や、デリヘルの用心棒の三浦との触れ合いの中で、様々な感情が沸き上が
り、少しずつ変化していきます。
子犬を抱く修、ごく普通に朝ごはんの支度をするみゆき。「彼女の人生は間違
いじゃない」「いつかは傷が癒えるかもしれない」。そう思わせるラストです。
正直なところやや詰め込みすぎの感もありますが、それだけ作り手の思いが強
かったということでしょう。主演の瀧内公美をはじめ役者たちの演技も見事。
震災から6年が過ぎてこういう映画が作られたことには、大きな意味があると感
じました。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（90点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2017年8月14日（月）新宿武蔵野館にて。午後2時55分の回
[「か」のページ]
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