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彼女がその名を知らない鳥たち
（2017年 日本）（上映時間2時間3分）
監督：白石和彌
出演：蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、村川絵梨、赤堀雅秋、赤澤ムック、中
嶋しゅう、竹野内豊
＊新宿バルト9ほかにて全国公開
ホームページ http://kanotori.com/
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＜ストーリー＞
下品で貧相な15歳上の男・陣治（阿部サダヲ）と暮らす十和子（蒼井優）は、8
年前に別れた黒崎（竹野内豊）のことを忘れられずにいた。陣治に激しい嫌悪
感を抱きつつ、働きもせずに彼の稼ぎのみで生活する十和子は、ある日、黒崎
に似た面影を持つ妻子ある水島（松坂桃李）と出会い関係を持つ。そんな中、
十和子は突然の刑事の訪問を受け、黒崎が行方不明であることを告げられる…
…。
＜レビュー＞
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嫌なヤツばかりが登場する風変わりな愛の物語
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沼田まほかるの小説の映画化。この映画の主要な登場人物は、みんな嫌なヤツ
です。
主人公は十和子という女。彼女は下品で貧相な15歳上の男・陣治と暮らしてい
ます。自ら仕事をすることもなく、彼の稼ぎのみで生活しています。それでい
て、陣治に激しい嫌悪感を抱き、何かと悪態をついています。
映画の冒頭で、十和子は百貨店に電話でクレームをつけています、大阪弁の独
特の言い回しもあって、その口調が実に憎たらしい。このシーンだけで十和子
が嫌な女であることが一目瞭然です。
十和子に尽くす陣治も下品さが際立ちます。食事の最中に靴下を脱ぎ、足の指
をいじる始末。そして何よりも、彼の十和子に対する接し方は尋常ではありま
せん。ストーカーという言葉さえも陳腐に聞こえてしまうほど、病的な執着ぶ
り、献身ぶりです。
そして十和子は、8年前に別れた黒崎という男のことが忘れられずにいます。そ
の黒崎は甘い言葉で十和子を誘い込み、利用するだけ利用します。自分の利益
のために、十和子を別の男に抱かせたりもします。その挙句に重傷を負わせて
ポイと捨てるサイテー野郎です。
ある日、十和子は妻子ある水島という男と出会い、黒崎の面影を重ねるように
彼との情事に溺れます。彼もまた嫌なヤツ。妻子がありながら、巧みに十和子
をその気にさせ、どんどん虜にします。
この映画の監督は『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』の白石和彌。さすがにロク
デナシを描かせたらピカイチです。その破格の嫌さのせいで、観客は誰にも感
情移入できないのです。
だが、それで終わらないのがこの映画の特徴。最初はただの嫌な女だった十和
子ですが、次第にその心の隙間が見えてきます。それは、どうしようもない目
に遭わされて、裏切られても、まだどこかで黒崎に惹かれている悲しい性です。
水島との関係についても、すでに彼の行動や発言に破綻を感じていのに、それ
でも会いたいと押し掛けます。
そんな十和子の心理を、イメージショットなども使いながら表現していく白石
監督。水島と過ごすラブホテルの天井から大量の砂が降り注ぐシーンなど、ど
れも鮮烈なショットです。
ドラマの転機は、突然の刑事の来訪によって訪れます。刑事は十和子に、黒崎
が行方不明であることを告げます。十和子は、黒崎の失踪の背景を探るうちに、
彼女の日常を監視していた陣治に対して疑念を抱くようになります。
陣治の告白によって事件は終わりを迎えると思われたものの、その後には意外
な展開が待っています。水島に対する暴力が、黒崎のそれと重ね合わされ、す
べての真相が明らかにされます。
最後に取った陣治の驚愕の行動。そして、その前後に映し出される彼と十和子
との出会いから今日まで。はたして、陣治の行動を純愛と呼べるのか。あるい
はゆがんだ愛なのか。いずれにしても、究極の愛の形には違いありません。ロ
クデナシどものドラマが、最後には愛のドラマへと見事に転化したのです。
沼田まほかるは「イヤミス」、つまり、読んで嫌になる後味の悪いミステリー
の代表的な作家。しかし、この映画のあと味はそんなに悪くありません。風変
わりな愛の物語として、なかなか面白い映画でした。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（87点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2017年11月3日（金・祝）新宿バルト9にて。午後2時20分の回
[「か」のページ]
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