|
勝手にふるえてろ
（2017年 日本）（上映時間1時間57分）
監督・脚本：大九明子
出演：松岡茉優、渡辺大知、石橋杏奈、北村匠海、趣里、前野朋哉、池田鉄洋、
古舘寛治、片桐はいり
＊新宿シネマカリテほかにて全国公開
ホームページ http://furuetero-movie.com/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
24歳のOLヨシカ（松岡茉優）は、中学の同級生の「イチ」（北村匠海）に10年
間片思いをしている。そんなある日、会社の同僚の「ニ」（渡辺大知）から突
然の告白を受け「人生で初めて告られた！」とテンションがあがる。だが、
「ニ」との関係にいまいち乗り切れないヨシカ。脳内片思いとリアルな恋愛が
同時進行する中で、ヨシカは「一目でいいから、今のイチに会って前のめりに
死んでいこう」と考え、同級生の名をかたって同窓会を計画。やがてイチと再
会するのだが……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
脳内恋愛女子の内面を描き切った爆笑コメディ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
芥川賞作家・綿矢りさによる同名小説の映画化です。主人公は24歳のOLヨシカ。
恋愛に奥手で、いまだに中学時代に気になっていた男の子「イチ」に10年間片
思い中。といっても、中学ではほんの少ししか口をきいたことがないし、卒業
後はまったく会ったこともない。完全に脳内だけの恋愛です。
ところが、人生とはわからないもの。ある日、ヨシカは会社の同僚の「ニ」か
ら突然告白されます。「ニ」は暑苦しくて「イチ」とは正反対のタイプ。それ
でも、ヨシカは「人生で初めて告られた！」とテンションがあがります。
しかし、そこはさすがに屈折女子。「ニ」との関係にいまいち乗り切れないヨ
シカ。やはり「イチ」のことが忘れられません。こうして脳内片思いとリアル
な恋愛が同時進行する中で、ヨシカは「一目でいいから、今のイチに会って前
のめりに死んでいこう」と考え、同級生の名をかたって同窓会を計画。そして、
やがてイチと再会するのですが……。
この映画で何よりも素晴らしいのが松岡茉優の演技です。ヨシカの一人芝居の
ような場面が連続するのですが、それを圧倒的な存在感で演じ切っています。
その一挙手一投足、微妙な表情の変化、他人の言動に対するほんの短い反応な
ど、完全にヨシカになりきった演技です。名演といってもいいでしょう。
大九明子監督の脚本と演出も素晴らしい。「イチ」と「ニ」の間で揺れ動くヨ
シカをユーモア満点に、ケレン味たっぷりに描いていきます。例えば、ヨシカ
のキャラの組み立て方です。彼女が愛好するのは地球から絶滅した動物たち。
ネット通販でアンモナイトの化石まで購入します。こうしたディテールが抜群
に面白く、しかもヨシカという人物を的確に表現しています。
そして、もう一つ特筆すべき仕掛けがあります。会社の同僚の来留美以外には
誰にも本音を明かさないように見えるヨシカですが、なぜか街でいつも出会う
人々に気軽に近況を語りかけます。一見、不自然にも思える光景ですが、そこ
には大きなからくりがあります。それが彼女の屈折ぶりと孤独をさらに強く印
象付けます。
とにかく、爆笑のエンターティメントです。ただし、ただのコメディーではあ
りません。恋愛や生き方の本質もちゃんと突いています。特に、同窓会をきっ
かけに、ヨシカの脳内における「イチ」との関係が変化するあたりからは、そ
うした色が濃くなってきます。
様々な波乱の果てに、ラストには用意されたのはヨシカと「ニ」との名シーン。
それは、風変わりなラブロマンスに落とし前をつけ、「勝手にふるえてろ」と
いうタイトルにもつながる心温まるシーンです。
個人的には、今年の邦画の上位にランクする作品。一見、女性向けの映画のよ
うに思えるかもしれませんが、男性も十分に楽しめるはず。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆（＋1／2★）
（94点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2017年10月30日 第30回東京国際映画祭P&I上映にて鑑賞
[「か」のページ]
|
|