君はひとりじゃない(CIALO/BODY)


(2015年 ポーランド)(上映時間1時間30分)
監督:マウゴシュカ・シュモフスカ
出演:ヤヌシュ・ガヨス、マヤ・オスタシェフスカ、ユスティナ・スワラ
*シネマート新宿、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://hitorijanai.jp/
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<ストーリー>
病気で母を亡くした娘オルガ(ユスティナ・スワラ)と検察官の父ヤヌシュ
(ヤヌシュ・ガヨス)。ヤヌシュは妻を亡くして以来、どんな凄惨な死体と対
面しても何も感じなくなってしまった。一方、オルガも母の死をきっかけに摂
食障害を患い、やせ細っていく日々だった。そんな娘を前にどう接していいか
わからず苦悩するヤヌシュ。だが、ある時、トイレで倒れているオルガを発見
したヤヌシュは、彼女を精神病院へ入院させる。そこには、想像を越える方法
でセラピーを行うセラピストのアンナ(マヤ・オスタシェフスカ)がいた……。

<レビュー>
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傷ついた父娘の再生をユニークすぎる語り口で描く
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2015年の第65回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞したポーランド
映画。

病気で母を亡くした娘と検察官の父の再生までのドラマ。といっても、かなり
変わった映画です。冒頭からいきなり信じられないシーンが登場します。検察
官の父ヤヌシュが首つり自殺の現場に到着。捜査活動を行います。ところが何
と自殺した遺体が、いきなり起き上がって普通に歩いていくではありませんか。

その後も、ところどころに死者が普通に現れます。まさに「超自然的」なカ
ラーに彩られた映画です。

ヤヌシュは妻の死をきっかけに、どんなに凄惨な死体と対面しても何も感じな
くなっています。産み落としたばかりの赤ん坊を殺害した女性の事件など、
様々な事件が登場しますが、部下がショックを受けてもヤヌシュは平然として
います。

そんな父に対して、娘のオルガも母の死をきっかけに摂食障害を患うようにな
ります。父はそんな娘を前にどう接していいかわからず、両者の関係はギクシ
ャクしています。

ある日、トイレで倒れているオルガを発見したヤヌシュは、ついに彼女を精神
病院へ入院させます。すると、そこには、セラピストのアンナという女性がい
ました。彼女は患者たちに対して、思いっきり叫ばせたり、感情をぶつけさせ
るなどユニークな方法でセラピーを行っていました。

それだけではありません。実は彼女は霊と交信して、死者の言葉を手紙に書い
て遺族に渡す「霊媒師」的な活動も行っていたのです。彼女がそんな能力を身
につけたきっかけは、幼い息子の突然の病死だったといいます。彼女もまた喪
失感を抱えているわけです。

まさに奇想天外で、予測不能なシーンが続出します。そのおかげで、「何じゃ、
こりゃ?」と思いながらスクリーンから目が離せませんでした。おまけに、こ
の映画、笑える要素もあちこちにあります。

父と娘の絆の再生といえば、少しずつ両者の心が打ち解けて、ほつれた糸が
徐々にほぐれていくというのが一般的な展開ですが、この映画ではそうはなり
ません。2人の関係は終盤まで平行線のままです。

その代わり、ラストですべてが一気に変化します。その転機となるのはヤヌシ
ュとオルガが暮らす家で起きる数々の異変です。誰も蛇口をひねっていない水
道の水が流れたり、亡き母が生前好きだったらしい音楽が突然流れたり。

それを聞いたセラピストのアンナは、「母の幽霊が現れているのだ」と告げ、
霊との交信を持ちかけます。しかし、ヤヌシュは信じません。ところが、終盤
近くになってある驚愕の手紙が見つかったことから、ヤヌシュもその申し出を
受けることになります。こうしてヤヌシュとオルガ、そしてアンナの3人はテー
ブルを囲んで、亡き母の霊と交信しようとするのですが……。

その結果がどうなったのかは伏せますが、これまた何ともユニークで人を食っ
たような展開で思わずニンマリしてしまいました。そして、その直後に映し出
されるヤヌシュとオルガの表情が素晴らしい。セリフはまったくないのに、2人
の心情がキッチリと込められていて、父娘の今後の関係を暗示してくれます。
こんなに能弁な沈黙の表情はめったにありません。

この映画では死者と生者の境界線が希薄に感じられます。それが何を意味する
かというと、死んだ人もこの世に影響を与え続け生者と関わり続けているとい
うことではないでしょうか。ヤヌシュとオルガの父娘の関係を変化させるのも
亡き母の存在です。

わかりやすい映画ではありませんが、その分、いろいろと想像力をかき立てま
す。そういう意味で観応えのある作品だと思います。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆(+1/2★)
(87点)
                           (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2017年8月8日(火)シネマート新宿にて。午後2時の回
                            


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