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マンチェスター・バイ・ザ・シー（MANCHESTER BY THE SEA）
（2016年 アメリカ）（上映時間2時間17分）
監督・脚本：ケネス・ロナーガン
出演：ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンド
ラー、ルーカス・ヘッジズ、カーラ・ヘイワード、C・J・ウィルソン、グレッ
チェン・モル、マシュー・ブロデリック、アンナ・バリシニコフ、ジョシュ・
ハミルトン、テイト・ドノバン、スーザン・プルファー、ロバート・セラ、ト
ム・ケンプ
＊シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほかにて全国公開
ホームページ http://www.manchesterbythesea.jp/
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＜ストーリー＞
アメリカのボストン郊外で便利屋として働くリー（ケイシー・アフレック）は、
兄ジョー（カイル・チャンドラー）の突然の訃報により故郷の港町マンチェス
ター・バイ・ザ・シーへ帰郷する。ジョーの遺言により、彼の16歳の遺児パト
リック（ルーカス・ヘッジズ）の後見人に指名されたリーは、パトリックにボ
ストンで一緒に暮らすことを提案するが拒否される。リーにとってこの町で暮
らすことは、つらい過去と向き合うことでもあった……。
＜レビュー＞
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傷ついた心を抱えたまま故郷に帰った男の苦しみ
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第89回アカデミー賞で、ケイシー・アフレックが主演男優賞、ケネス・ロナー
ガン監督が脚本賞を受賞したヒューマンドラマです。
最初に映るのは、タイトルにもなっている港町マンチェスター・バイ・ザ・
シーの風景。これが何とも寒々しい。この映画が凍り付いた心を持つ人のドラ
マであることが、この風景に象徴されています。
主人公はボストン郊外で便利屋として働くリーという男。彼が兄のジョーとそ
の息子パトリックとともに、船に乗って釣りを楽しむシーンが登場します。た
だし、これは過去の出来事。
現在のリーは、腕のいい便利屋ですが、同時に不愛想でトラブルばかり起こし
ています。どうやら、彼の心は壊れているようです。いったい何があったので
しょうか。
そんな彼のもとに、兄ジョーが倒れたという知らせが入ります。そこで故郷の
マンチェスター・バイ・ザ・シーの病院に駆け付けると、すでにジョーは死亡
していました。
まもなく、リーはジョーの遺言を預かった弁護士から、彼の息子でリーにとっ
て甥にあたる16歳のパトリックの後見人に指名されていることを告げられます。
リーは戸惑いつつ、パトリックに対してボストンで一緒に暮らすことを提案し
ます。実は、リーにはどうしてもこの町にいたくない事情があったのです。し
かし、パトリックはこの町を離れたくないとリーの提案を拒否します。
それでもリーとパトリックはしばらく一緒に暮らします（ジョーの葬儀や埋葬
もあるので）。こうして2人の交流が始まるのですが、それはかなりギクシャク
したものです。
現在進行形のドラマの合間に、過去の出来事が挟み込まれる構成。そこでリー
の過去にどんな出来事があったかが語られます。かつては、妻と３人の幼い子
供とこの町で暮らしていたリー。しかし、ちょっとした過失から大きな悲劇が
彼らを襲います。それがすべてを彼から奪い、今も心に深い傷をつけたままな
のです。
登場人物の微妙な心理の揺れ動きが繊細に描写されます。リー、パトリック、
リーの元妻ランディ、リーの実母。彼らの複雑な内面がリアルに伝わってきま
す。特にリーを演じたケイシー・アフレックの演技が素晴らしい。セリフ以外
で様々な心情を物語ります。ほとんど笑わないどころか、表情の変化自体が乏
しいのですが、それでも目線やほんのわずかな顔の動きなどで、多くのことを
表現します。
何といってもグッとくるのが、あの悲劇以来、初めてリーと元妻ランディが本
格的に言葉を交わす終盤のシーン。お互いに言葉では言い表せない様々な思い
を抱えて、どうしようもない２人。ランディ役のミシェル・ウィリアムズの演
技も素晴らしくて、やるせなくてたまらなくなってしまいます。
その一件がリーにある決断をさせることになります。安直な再生や癒しは、こ
のドラマにはありません。人間はそう簡単にトラウマを乗り越えられないこと
を観客に伝えます。それでもラストでは、微かな希望の灯がともされます。
ユーモラスなシーンも多少ありますが、基本は重苦しく物悲しいドラマ。です
が、リアルで深い人間ドラマで観る価値は十分にあります。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（93点）
（田中ひろあき）
2017年5月17日（水）YEBISU GARDEN CINEMAにて。午後１時30分の回
[「ま」のページ]
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