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散歩する侵略者
（2017年 日本）（上映時間2時間9分）
監督：黒沢清
出演：長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、前田敦子、満島真之介、
児嶋一哉、光石研、東出昌大、小泉今日子、笹野高史、長谷川博己
＊新宿ピカデリーほかにて全国公開
ホームページ http://sanpo-movie.jp/
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＜ストーリー＞
加瀬鳴海（長澤まさみ）の夫・真治（松田龍平）が、数日間行方不明になった
のちに帰って来る。だが、真治はまるで別人のようになっていた。戸惑う鳴海
をよそに、真治は会社を辞め、毎日散歩するようになる。その頃、町では謎め
いた一家惨殺事件が発生し、不可思議な現象が頻発していた。取材を進めるジ
ャーナリストの桜井（長谷川博己）は、偶然出会った奇妙な青年・天野（高杉
真宙）に興味を抱き、彼とともに事件のカギを握る女子高生・立花あきら（恒
松祐里）の行方を追う。そんな中、真治は鳴海に「自分は地球を侵略に来た宇
宙人だ」と告白する……。
＜レビュー＞
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宇宙人による地球侵略と夫婦愛のＳＦエンタメドラマ
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劇作家・前川知大率いる劇団イキウメの舞台劇を黒沢清監督が映画化しました。
冒頭は金魚すくいの場面。すくった金魚を持ち帰る女子高生。その後、場面は
一変して、謎の一家惨殺事件の現場へ。そこから出てきたらしい血だらけの女
子高生。一本道を歩いてくると、その背後で車が大事故を起こします。何とも
不気味な幕開けです。
続いて登場するのは1組の夫婦。加瀬鳴海と夫の真治。真治は数日間行方不明だ
ったのちに帰ってきたものの、内面が別人のようになっています。鳴海が戸惑
う中で、真治は会社を辞め、毎日散歩するようになります。
一方、例の一家惨殺事件を取材するジャーナリストの桜井は、偶然出会った奇
妙な青年・天野に興味を抱き、彼とともに事件のカギを握る女子高生・立花あ
きらの行方を追うようになります。
というわけで、この2つのエピソードが並行して描かれます。真治はどうして別
人のようになってしまったのか。そして天野とあきらは何者なのか。この疑問
がドラマの中心かと思いきや、その答えは早いうちにあっさりわかってしまい
ます。
真治、天野、そしてあきらは、地球人の体を乗っ取った宇宙人。彼らは地球侵
略を目論んでいて、そのために地球人のことを調べにやって来たのでした
ただし、彼らの正体が明らかになっても、面白さが失われることはありません。
散歩と侵略者という不似合いなタイトルに象徴されるように、前半では不条理
なユーモアがタップリ詰め込まれています。特に、地球人のことを理解しない
まま体を乗っ取ってしまった宇宙人たちの奇妙な言動が、笑いの種を振りまき
ます。
面白いのは、宇宙人たちが人間の概念を奪い取るという設定です。家族、所有、
仕事といった様々な概念を人間から奪い取って、人間のことを学習します。奪
い取られた人間はその概念をなくしてしまい、元とは違った人間になってしま
います。こうした設定を通して投げかけられるのは、「人間らしさとは何か」
という問いかけでしょう。
とはいえ、それが深まることはありません。あくまでもＳＦドラマの盛り立て
役として使っています。また、過去の黒沢作品にあったように人間の深層心理
をグサリと突いたり、それを背景にした心理的な恐怖をあぶりだすようなとこ
ろも皆無です。
おそらく黒沢監督の今回の狙いは、過去のハリウッド映画などもふまえつつ、
あくまでもＳＦエンタメ作品としての面白さを追求しようとしたのではないで
しょうか。
それが後半になると明確になってきます。地球でつかんだ情報を伝えるため通
信機を作ろうとする天野とあきら。その過程では格闘アクションや銃撃アクシ
ョンも炸裂します。そして、そんな宇宙人の野望を阻止するべく、自衛隊や政
府機関などもうごめいてどんどんスケールが大きくなり、予測不能な展開へと
突入していきます。
そんな中で、鳴海と真治との関係にも微妙な変化が訪れます。以前は不仲だっ
た2人が、宇宙人による地球侵略という緊急事態の中で、少しずつ絆を深めてい
きます。つまり、この映画は鳴海と真治のラブストーリーでもあるわけです。
終盤は、飛行機による大爆撃まで飛び出すケレン味たっぷりの展開。映画なら
ではの魅力が詰まっています。
それを経て、ついに侵略が開始されます。はたして、人類は全滅するのか。鳴
海と真治の運命は？
そこで大きなカギを握るのが「愛」という概念。まさに愛は地球を救うのか？
とにもかくにも、アクションやラブストーリーなど様々な要素を盛り込みつつ、
徹底的に映画的な面白さを追求したＳＦエンタメ映画になっています。『岸辺
の旅』『クリーピー 偽りの隣人』あたりの黒沢作品を頭に置いてみると、拍
子抜けする人もいそうですが、難しいことを考えずに観ればそれなりに楽しめ
るはず。豪華キャストの共演も見応えがあります。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（86点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2017年9月10日（日）シネ・リーブル池袋にて。午後1時50分の回
[「さ」のページ]
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