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サラエヴォの銃声（SMRT U SARAJEVU）
（2016年 フランス、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ）（上映時間1時間25分）
監督・脚本：ダニス・タノヴィッチ
出演：ジャック・ウェベール、スネジャナ・ヴィドヴィッチ、イズディン・バイロヴィッチ、ヴェドラナ・セクサン、ムハメド・ハジョヴィッチ
＊新宿シネマカリテほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://www.bitters.co.jp/tanovic/
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＜ストーリー＞
第1次世界大戦勃発のきっかけとなったサラエヴォ事件から100年が経った2014年6月28日。その記念式典が行われる「ホテル・ヨーロッパ」。屋上では、ジャーナリストが事件とその後の歴史についてインタビューしていた。客室ではVIPが式典での演説の練習をしていた。一方、ホテルの従業員たちは賃金未払いをめぐってストライキを企て、支配人はそれを阻止するべくギャングを動かす。やがてホテル内に1発の銃声が鳴り響く……。
＜レビュー＞
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絶望的な状況をサラエヴォのホテルに象徴させた群像劇
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『ノー・マンズ・ランド』『鉄くず拾いの物語』、そして先日は『汚れたミルク／あるセールスマンの告発』が公開になったばかりのダニス・タノヴィッチ監督の作品。今回はサラエヴォのホテルを舞台にした群像劇です。2016年のベルリン国際映画祭にて銀熊賞（審査員グランプリ）を受賞しました。
この映画を観るには、多少の予備知識がないと厳しいかもしれません。まず、サラエヴォでは1914年にオーストリア・ハンガリー帝国の皇太子が、プリンツィプという青年に暗殺され、これが第一次世界大戦の引き金になりました。これがサラエヴォ事件。そして、1990年代には民族対立に起因する激しい内戦が起きて、多くの人が犠牲になりました。サラエヴォはまさにその内戦の主戦場。この２つの出来事が、映画の大きな背景になっています。
舞台になるのはサラエヴォのホテル「ホテル・ヨーロッパ」。サラエヴォ事件から100年が経った記念式典が行われようとしています。その当日、屋上ではドキュメンタリー番組の制作の一環としてインタビューが行われています。女性ジャーナリストが、学者などにサラエヴォ事件とその後の歴史について話を聞きます。ところが、そこにサラエヴォ事件の犯人のプリンツィプと同じ名前を持つ男が現れて、「プリンツィプはテロリストではなく英雄だ」と主張。それに反発したジャーナリストと大口論になります。
どうやら、2人の口論の背景には、1990年代の民族対立を背景にした内戦がある模様。それが両者をどんどん感情的にさせます。
その一方で、ホテルの客室では式典に参加するらしいVIPが演説の練習をしています。その模様が警備室のカメラに映されています。彼らはただ護衛を頼まれただけなのに、手違いで監視カメラを仕掛けてしまったというのです。
そして、このホテルでは従業員たちがストライキを計画しています。有名人もたくさん泊まったホテルですが、今は経営危機で2か月も給料が支払わせれていません。それに抗議するためのストです。しかし、強圧的な支配人はこれを阻止すべく、ホテルの地下のバーにたむろするワルたちにストを阻止するように依頼します。
その一件には、フロント係の女性とその母でリネン室で働く女性も絡んで、大変なことになります。
こんなふうに、ホテルを縦横無尽に移動しながら、長回しのカメラを中心にして、リアルかつスリリングな映像で様々な人物を描いていくタノヴィッチ監督。何やら不穏な空気が増幅していきます。
やがて一発の銃声が響きます。何が起きたのかは伏せますが、100年前のサラエヴォ事件とリンクする出来事で、思わず息を飲んでしまいました。そして、その後に映される無人になったホテルを見て、寒々しい気持ちにさせられました。
正直なところサラエヴォ事件はともかく、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ内戦を巡る詳細な事情を知らないので、イマイチついていけないところもあるのですが、それでも事態の複雑さはよくわかりました。
表面的には平穏に見えても、ひと皮むけば民族同士の憎悪が渦巻き、ちょっとしたきっかけで恐ろしい事態に発展しかねない。それはサラエヴォだけでなく、ヨーロッパ全体、さらには世界中にあてはまることなのかもしれません。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（81点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2017年3月26日（日）新宿シネマカリテにて。午後2時30分の回
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