|
The NET 網に囚われた男（THE
NET）
（2016年 韓国）（上映時間1時間52分）
監督・脚本・撮影：キム・ギドク
出演：リュ・スンボム、イ・ウォングン、キム・ヨンミン、チェ・グィファ、
イ・ウヌ
＊シネマカリテほかにて公開。順次全国公開
ホームページ http://www.thenet-ami.com/
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
＜ストーリー＞
北朝鮮で妻子と平穏な毎日を送っていた漁師のナム・チョル（リュ・スンボ
ム）は、ある日、漁の最中に船のスクリューに網が絡まりエンジンが故障して
しまう。そのまま漂流して韓国領内に入った彼は、韓国警察に身柄を拘束され、
スパイ容疑で厳しい取り調べを受ける。韓国への亡命を強要されながらも、ひ
たすら妻子のもとへ返してほしいと訴え続けるナム・チョルだったが……。
＜レビュー＞
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
二つの国家に翻弄される男の過酷な運命
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
韓国の鬼才キム・ギドク監督。過激な描写で知られますが、今回はそれを封印
して南北分断をテーマにした社会派ヒューマンドラマを展開しています。
主人公は北朝鮮で、妻と幼い娘と暮らす漁師のナム・チョル。ある日、いつも
のように小さな船で漁に出た彼ですが、スクリューに網が絡まりエンジンが故
障してしまいます。そのまま漂流して韓国領内に入った彼は、韓国警察に身柄
を拘束され、スパイ容疑で取り調べを受けます。
当然ながら取り調べは激しいもので、拷問も加えられます。以前のキム・ギド
ク監督なら、目をそむけたくなるシーンがたくさん登場したことでしょう。し
かし、今回は拷問シーンをブラインドで隠すなどして、抑制的に描きます。さ
らに、取調官を典型的なワル（といっても内面には色々あるのですが）的に見
せて、善人であるチョルと対決させます。おまけに、チョルに同情して友情関
係になる若い警護官（しかもイケメン）を配置するなど、ドラマを盛り上げる
様々な工夫をしています。
その後、チョルは亡命するように説得されます。その過程で、彼はソウルの街
に連れ出されます。そこで、「見てしまうと北に帰ってからよけいなことをし
ゃべるから」と目をつぶり続けるチョルの姿が印象的です。彼はひたすら北に
帰ることを願います。それは思想云々ではなく、ただ家族と静かに暮らしたい
という純粋な思いからです。
チョルは街で偶然ある娼婦を助けます。そこで彼は、自由な国のはずの韓国に
不幸な人がたくさんいること、お金がものをいう世界であることを知らされま
す。キム・ギドク監督は、韓国という国家の抱える闇を容赦なく暴き出します。
そうした姿勢は北朝鮮にも向けられます。チョルはついに北朝鮮に帰ります。
表面的には英雄として迎えられますが、その裏で今度は北朝鮮当局が彼を取り
調べます。それはまさに韓国で受けた取り調べと、合わせ鏡のような厳しい取
り調べです。
ナム・チョルは本当に普通の人です。家族思いで優しい心を持ち、ただ穏やか
に暮らしたいと願う市井の人です。そんな人物を韓国も、北朝鮮も同じように
翻弄し、過酷な状況に追い込んでいきます。何とも切なく、哀しい運命です。
ラストに待ち受けているのは衝撃的な出来事。そこまでチョルを追い込んだ権
力に対する怒りが湧いてきます。はたして、この南北分断の悲劇はいつ終わる
のでしょうか。
主人公チョルを演じるのは、『ベルリンファイル』などでアクション俳優とし
ても活躍するリュ・スンボム。試練に耐えて自分を曲げない男を存在感たっぷ
りに演じています。青年警護官役のイ・ウォングン、チョルの妻を演じた『メ
ビウス』のイ・ウヌなども印象的な演技でした。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（90点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2017年1月11日（水）シネマカリテにて。午後12時45分の回
[「アルファベット」のページ][「さ」のページ]
|
|