ザ・ウォール(THE WALL)


(2017年 アメリカ)(上映時間1時間30分)
監督:ダグ・リーマン
出演:アーロン・テイラー=ジョンソン、ジョン・シナ、ライト・ナクリ(声
の出演)
*新宿バルト9ほかにて全国公開
ホームページ http://thewall-movie.jp/
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<ストーリー>
2007年、イラクの荒廃した村。連絡の途絶えたパイプライン建設現場に向かっ
たアメリカ兵のアイザック(アーロン・テイラー=ジョンソン)とマシューズ
(ジョン・シナ)は、周囲にまだ敵が潜んでいると考え、その動静を探ってい
た。だが、まったく動きがないためマシューズは壁に近づく。その瞬間、彼は
想定外の場所から銃撃されてしまう。援護に向かったアイザックも脚を撃たれ
てしまい、崩れかけた壁の背後に辛うじて逃げ込む。身動きが取れなくなり、
通信機が故障して助けを呼ぶこともできないアイザック。そんな中、仲間を名
乗る男から無線が入る。ところが、それは死に神と恐れられるスナイパー、ジ
ューバだった……。

<レビュー>
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姿の見えないスナイパーと対峙する男をスリリングに描く
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イラク戦争で30人以上ものアメリカ兵を殺害したと言われる実在の凄腕スナイ
パーをモチーフにした映画です。

2007年のイラクの荒廃した村。冒頭に映る双眼鏡越しの映像。そこに見えるの
は、瓦礫の中に残る大きな石の壁と周辺に転がる数体の死体。双眼鏡を覗くの
はアメリカ兵のアイザックとマシューズです。その場所はパイプラインの建設
現場ですが、要員からの連絡が途絶えたために2人が派遣されました。

どうやら死体はほぼ全員が頭を撃ち抜かれています。いったい誰が、どこから
狙撃したのか。正体は不明ですが、よほどの腕前のスナイパーに違いありませ
ん。2人はまだ周囲にスナイパーが潜んでいると考えて偵察を続けたものの、す
でに5時間近く何の動きもありません。しびれを切らしたマシューズは、「もう
敵はいない」と判断し、壁に近づいていきます。

その瞬間、彼は想定外の場所から銃撃され倒れてしまいます。すぐに援護に向
かったアイザックも脚を撃たれて、崩れかけた壁の背後に辛うじて逃げ込みま
す。まだ意識のあるマシューズは、倒れたままで「無線で助けを呼べ」と言い
ます。そこでアイザックは通信機を使って、本部への連絡を試みます。だが、
アンテナが壊れていたため通信はできず、助けを呼ぶことはでききせん。

応急手当で足を止血し、ナイフで銃弾を取り出したものの、まもなくアイザッ
クは気を失ってしまいます。

ここまで観ただけでも、この映画の尋常ではない緊張感がわかります。手持ち
カメラ、表情のアップ、長回しなどを多用した映像によって、アイザックの心
理をリアルに切り取っています。目に見えない敵に狙われる緊迫感と恐怖、孤
立無援の絶望感。観客は自分も現場に放り込まれたような気分になってしまい
ます。

やがてアイザックは意識を取り戻します。気づくと無線から声が聞こえます。
近くにいる仲間で、すぐに助けるというのです。しかし、アイザックはその声
にかすかな訛りがあると気づいて、男の話に疑問を持ちます。やがて男は、自
分がイラク人であることを明かします。アイザックは、それがアメリカから死
に神と恐れられるスナイパー、ジューバだと確信します。

そこからはアイザックとジューバとの無線越しの会話が展開。その間に、アイ
ザックはジューバがどこに潜んでいるのか突き止めようとします。そこで大き
な効果を発揮するのが、崩壊しかけた壁という舞台装置。アイザックが身を隠
すには十分ですが、ヘタに身動きすればまた撃たれてしまいます。それがハラ
ハラドキドキ感をますます高めます。

視点は米軍一辺倒ではありません。時々、ジューバが観ている双眼鏡越しの映
像が登場。無線機越しではない生の彼の声も聞こえます。それがさらに緊迫感
を高めるのと同時に、彼の心理までもリアルに伝えます。

どうやらジューバは米軍で訓練を受けた経験を持つものの、ある出来事をきっ
かけにやむにやまれぬ思いから、アメリカを敵に回すことにしたようです。イ
ラクでアメリカがやったことの愚かさを突きつける告白です。

一方、ジューバに促された自分を語るアイザックも、そのうちに誰にも言えな
かった秘密を明かします。それもまた戦争がもたらす悲劇をあぶりだした告白
です。

この映画の結末については、賛否両論ありそうです。もうひとひねりが欲しい
という意見も理解できます。ただし、戦争の愚かさや悲劇性を強調するという
点では、ああいう終わり方もアリかもしれません。

前半からほぼ一人芝居を展開した「キック・アス」のアーロン・テイラー=ジ
ョンソンの演技は、予想をはるかに超える水準でした。ワンシチュエーション
で展開されるスリリングなサバイバル劇に加え、ちらりと戦争の実像も描き出
した作品です。

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆(+1/2★)
(86点)
                                         (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2017年9月3日(日)新宿バルト9にて。午後1時の回


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