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ありがとう、トニ・エルドマン（TONI ERDMANN）
（2016年 ドイツ・オーストリア）（上映時間2時間42分）
監督・脚本：マーレン・アデ
出演；ペーター・ジモニシェック、ザンドラ・ヒュラー、ミヒャエル・ヴィッ
テンボルン、トーマス・ロイブル、イングリット・ビス、トリスタン・ピュッ
ター、ハーデヴィッフ・ミニス、ルーシー・ラッセル、ヴラド・イヴァノフ、
ヴィクトリア・コチアシュ
＊シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほかにて公開
ホームページ http://www.bitters.co.jp/tonierdmann/
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＜ストーリー＞
ドイツに暮らす悪ふざけが大好きな初老の男性ヴィンフリート（ペーター・ジ
モニシェック）は、ルーマニアのブカレストでコンサルタント会社に勤める娘
イネス（ザンドラ・ヒュラー）のもとを訪問する。忙しく働くイネスは、連絡
もなくいきなり現われた父に戸惑い、ぎくしゃくしたまま数日間を過ごす。よ
うやくドイツに帰ったはずのヴィンフリートだが、今度は変なカツラをかぶり、
別人の「トニ・エルドマン」と名乗って、イネスの職場や自宅に現れる……。
＜レビュー＞
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コミカルなのにリアルすぎる父と娘のドラマ
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ドイツ人の父ヴィンフリートと娘イネスのドラマです。ただし、このヴィンフ
リートがかなり変わっています。早くも冒頭でその変わり者ぶりがわかります。
家に来た宅配便のスタッフに対して、ヴィンフリートは自分と架空の弟の一人
二役を演じ、「この荷物は爆弾だ」などと物騒なことを言います。そうです。
ヴィンフリートは悪ふざけが大好きなのです。本人は面白い冗談のつもりなの
ですが、周囲はそうは受け取りません。まるで悪ガキです。
それに対してコンサルタント会社に勤める娘のイネスは、仕事一筋の人生を送
るバリバリのキャリアウーマン。いつも額にしわを寄せて、ほとんど笑顔を見
せません。そして頻繁に携帯電話で仕事の話をしています。
まもなくヴィンフリートは愛犬を亡くします。その直後に、彼はルーマニアの
ブカレストに赴任しているイネスのもとを訪れます。
しかし、これは予告なしの突然の訪問。しかも、イネスは難しい案件を抱えて、
連日その対応に追われています。夜は取引先の取締役を接待し、休みの日もそ
の妻の買い物に付き合います。
そんな場所にも、ヴィンフリートを連れていくハメになるイネス。しかし、何
しろ変わり者の父親だけに、変な行動で相手を困らせます。それがまたイネス
の機嫌を悪くさせます。というわけで、父と娘はぎくしゃくした関係のまま数
日を過ごします。
そして、ついにヴィンフリートはドイツへ帰国。ほっとするイネス……と思っ
たら、実はヴィンフリートは帰国していませんでした。変なカツラをかぶって、
「自分はコーチングの仕事をしているトニ・エルドマンだ」などと名乗って、
娘の周囲に出没するようになるのです。
この映画は実にユニークです。基本はコメディー。ヴィンフリートの悪ふざけ
など、笑える場面がたくさんあります。しかし、この手のコメディーには異例
ですが、なんと全編手持ちカメラで、長回しを多用したドキュメンタリータッ
チの映像で描いているのです。もちろん音楽もなし。
さらに、上映時間もコメディーとしては異例の2時間42分という長さ。ドキュメ
ンタリータッチの映像で、父と娘の細かな行動まで余すところなく積み重ねる
ことで、圧倒的なリアリティーを持たせているわけです。
映画が進むうちに、ヴィンフリートがトニ・エルドマンとして振る舞うのは、
ひとえにイネスに笑顔になってもらいたいからだということがわかってきます。
イネスも父の思いを少しずつ感じ取り始めます。
その転機になるのが、父のピアノで（実はヴィンフリートは音楽教師！）、イ
ネスが無理やりホイットニー・ヒューストンの曲を歌う場面。半ばやけ気味に
歌うイネスからは、「自分も変わりたい」という思いがそこはかとなく伝わっ
てきます。
そして、その後に登場する驚きの展開。イネスが自宅に上司や同僚を招いた
パーティーで、ドレスを着るのに手こずりブチ切れます。しかも、そこにあの
人がとんでもない格好で登場。
こうして変わり者の父によって、イネスは変化を遂げます。ただし、それをよ
くある感動ストーリー風にまとめないのが、この映画らしいところ。「ありが
とう、トニ・エルドマン」などとイネスにわかりやすいセリフを吐かせること
はなく、公園でのハグ、ラストの表情などで彼女の変化をスクリーンに刻みま
す。
コメディーでありながらリアルさを失わず、父と娘の関係に胸を熱くさせられ、
さらに人生や働くことの意味まで考えさせられます。脚本・監督のマーレン・
アデの手腕に感服です。
ジャック・ニコルソンがハリウッド・リメイクするとのことで、そちらも楽し
みです。
≪ぽちの満足度≫
★★★★☆
（92点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2017年6月25日（日）シネスイッチ銀座にて。午後12時15分の回
[「あ」のページ]
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