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月と雷
（2016年 日本）（上映時間2時間）
監督：安藤尋
出演：初音映莉子、高良健吾、藤井武美、黒田大輔、市川由衣、村上淳、木場
勝己、草刈民代
＊テアトル新宿ほかにて公開。全国順次公開
ホームページ http://tsukitokaminari.com/
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＜ストーリー＞
幼い頃に母が家を出て以来、普通の家庭を知らずに育った泰子（初音映莉子）。
亡き父が遺してくれた家に暮らし、職場であるスーパーで知り合った男性との
結婚を控えていた。そんなある日、泰子の前に、かつて父の愛人だった直子の
息子・智（高良健吾）が現れる。やがて、その直子（草刈民代）もふらりと現
われて、さらに泰子の異父妹・亜里砂（藤井武美）も加わって奇妙な共同生活
が始まる……。
＜レビュー＞
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欠落した人々の奇妙な同居生活がもたらす化学変化
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角田光代の小説の映画化。監督は『海を感じる時』『花芯』の安藤尋。
最初に描かれるのは幼い女の子と男の子。タンスの中に入ったりして無邪気に
遊んでいます。ただし、部屋の中は乱雑に散らかっています。そして、縁側で
は1人の女がタバコを吸って外を見ています。
続いて、今度は女の子だけが映ります。タンスから出てくると、そこには誰も
いません。部屋もきれいに片付いています。女の子は外に飛び出して誰かを探
します。その後、雨の中、女の子は1人の男に「もうあの人は戻ってこない
の？」と問います。その男は「もう忘れなさい」と告げます。
そしてオープニングタイトルが映り、場面が変わります。登場するのはスー
パーのレジで働く泰子。彼女は父が遺してくれた家に住み、職場の男性と結婚
間近です。
その泰子に1人の青年が声をかけます。智というその青年は、20年前、母の直子
とともに家に転がり込んできて、半年間だけ一緒に暮らしていたのです。そう。
本作の最初に登場した幼い女の子と男の子は、泰子と智でした。結婚を機に、
普通の生活を送ろうと思っていた泰子でしたが、突然の智の登場でそれが大き
く揺らぎだします。
正直なところ、序盤の展開には戸惑いました。何しろ智は泰子の家に上がり込
み、すぐに2人はエッチをしてしまうのです。いくら子供の頃に仲良しだったと
いっても、20年ぶりに再会したばかりでそんなことになるのか？？？？？
その後、泰子は「実母を探して欲しい」と智に言います。すると、何の前フリ
もなく次の瞬間、泰子がテレビの再会番組に出演して、実母に再会します。こ
れまたあまりにも唐突すぎる展開です。
しかし、よくよく考えてみると、これは計算ずくの唐突さかも。そもそも、こ
のドラマは現実からやや遊離しています。智の母の直子は、次々に男の家を渡
り歩く生活を繰り返してきました。その数ときたらハンパではありません。
そんな人物の登場するドラマに対して、中途半端にリアリティを持たせるより
も、オフビートの笑いも含めてある種のファンタジー的タッチを加えて、描こ
うとしたのかもしれません。
とはいえ、ただの絵空事のドラマではありません。中盤以降は、泰子や智の葛
藤がクローズアップされます。子連れの愛人によって家族を壊された過去を持
つ泰子は、普通の生活を志向しつつも、家族というものに対して懐疑的な思い
がぬぐえません。一方の智も、泰子と違い母がそばにいたというものの、彼女
の行動は世間的には常識はずれなものであり普通の生活とはほど遠いものです。
いわば2人とも大切なものが欠落しており、それに対する大きな不安を抱えてい
るわけです。そんな中、泰子は妊娠してしまいます。はたして彼女は母親にな
る決断ができるのか。そして智は……。
そんな2人に加え、新しい男の家を出たばかりの直子、再婚した泰子の母が生ん
だ異父妹の亜里砂の4人で奇妙な同居生活を始める後半。その中で、温かな触れ
合いや激しい軋轢が演じられ、様々な化学変化が起き、泰子と智は変化してい
きます。
ラストで泰子が見せる笑顔の意味は、明確には明かされず観客に判断をゆだね
ています。余韻の残るラストです。
この映画で最も目立つのは、直子役の草刈民代の演技でしょう。あのハンパで
ないヤサグレ感、現実と虚構の狭間を行き来するような浮遊感が、実に素晴ら
しい演技でした。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆
（82点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2017年10月12日（木）テアトル新宿にて。午後1時30分の回
[「つ」のページ]
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