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海辺のリア
（2016年 日本）（上映時間1時間45分）
監督・脚本：小林政広
出演：仲代達矢、黒木華、原田美枝子、小林薫、阿部寛
＊テアトル新宿ほかにて公開
ホームページ http://www.umibenolear.com/
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＜ストーリー＞
役者として半世紀以上のキャリアを積み、かつては大スターとして映画や舞台
で活躍した桑畑兆吉（仲代達矢）。しかし、今は認知症になり、長女・由紀子
（原田美枝子）とその夫・行男（阿部寛）に裏切られ、遺書を書かされた挙句
に、老人ホームに入れられてしまう。そんなある日、施設から脱走した兆吉は
あてもなく海辺をさまよう。まもなく彼は、妻とは別の女に産ませた娘の伸子
（黒木華）と突然の再会を果たす。兆吉は伸子が私生児を産んだことが許せず、
家から追いだした過去があった。兆吉は伸子に「リア王」の娘であるコーデ
ィーリアの幻影を見るのだが……。
＜レビュー＞
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まるで舞台劇のような仲代達矢の演技を観る映画
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日本を代表する名優の1人、仲代達矢が『春との旅』『日本の悲劇』に続いて小
林政広監督と組んだ映画です。
シルクのパジャマにコートをはおり、スーツケースを引きずって歩く老人が最
初に登場します。何やら悪態をついている様子。続いて、住宅から夫婦らしき
人物が喧嘩しながら出てきて車に乗り込みます。どうやら老人の家族のようで
す。その後、海辺に現れた老人は若い女、伸子と出会います。何やらこの女も
ワケありふうです。
まもなく、その老人は桑畑兆吉という元スター役者で、現在は認知症で老人
ホームから脱走したことがわかります。そして、夫婦らしき人物は、兆吉の娘
の由紀子と、その夫の行男であることが明かされます。また、伸子は由紀子の
腹違いの妹であることも判明します。
彼らの関係は複雑です。兆吉は由紀子と行男に裏切られ、遺書を書かされた挙
句に、老人ホームに入れられました。ただし、その首謀者は由紀子。行男は彼
女にコントロールされる一方、経営を任された会社は借金まみれでにっちもさ
っちもいきません。しかも、由紀子は謎の運転手と不倫関係にあります。
一方、兆吉は妻とは別の女に生ませた伸子と、かつては一緒に住んでいました。
しかし、由紀子が私生児を生んだのをきっかけに、兆吉と由紀子は伸子を家か
ら追い出してしまったのです。さぁ、こんなドロドロの愛憎関係にある人々が、
いったいどんな出来事を起こすのでしょうか。
と思ったら、とりたてて何も起きませんでした。あちこちさまよう兆吉。その
そばで恨みつらみを吐き出す伸子。兆吉を探す行男。ドラマの基本はそれだけ
です。ただし、彼らの会話や独り言の中から、それぞれの屈折した胸の内がジ
ワジワとにじみ出てきます。
実はこの映画、観始めてすぐに違和感が湧いてきました。例えば、大仰なセリ
フや説明ゼリフが多いところ、場面転換がほとんどなく同じシーンが長く続く
ところなど、映画というよりは舞台を観ているような気がしたのです。
これって、もしかしたら作り手の意図通りなのかもしれません。仲代達矢とい
えば、映画はもちろん舞台でも押しも押されもしない名優。そんな舞台俳優と
しての魅力を、いかんなく発揮させようとしたのではないでしょうか。
そうやって観ると、さすがに素晴らしい演技です。認知症という役柄でありな
がら、そこには一面的ではない様々な表情があります。時には重厚に、時には
軽妙に、元スター俳優の心情を十二分に発揮しています。
そのハイライトは、やはり終盤の海辺での一人芝居でしょう。「海辺のリア」
というタイトルにあるように、シェークスピアの「リア王」を演じながら、伸
子にリア王の娘であるコーディーリアの幻影を見るシーンが圧巻です。
同時に、彼を取り巻く伸子役の黒木華、行男役の阿部寛ともに舞台の実績があ
るだけに、こちらも素晴らしい演技です。伸子の海辺での独白、行男の車の中
での長い一人芝居など、印象的なシーンが飛び出します。
ラスト近くの車の中のシーンで、娘の由紀子の隣で兆吉は自分の人生を振り返
ります。それはまるで、仲代達矢自身の役者人生を語っているかのような錯覚
さえ起こさせます。
これはやはり仲代達矢を観に行く映画といっていいでしょう。そのぐらい圧倒
的な演技でした。
≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆（＋1／2★）
（82点）
（田中ひろあき）
〔鑑賞データ〕
2017年6月8日（木）テアトル新宿にて。午前11時30分の回
[「う」のページ]
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