汚れたミルク/あるセールスマンの告発(TIGERS)


(2014年 インド・フランス・イギリス)(上映時間1時間34分)
監督:ダニス・タノヴィッチ
出演:イムラン・ハシュミ、ギータンジャリ、ダニー・ヒューストン、ハリ
ド・アブダラ、アディル・フセイン、サティーヤディーブ・ミシュラ、マリア
ム・ダボ、ハイノ・フェルヒ、サム・リード、ビノード・ナグパル、スプリ
ヤ・パタク
*新宿シネマカリテほかにて公開
ホームページ http://www.bitters.co.jp/tanovic/
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<ストーリー>
1994年のパキスタン。国内製薬会社のセールスマン、アヤン(イムラン・ハシ
ュミ)は、妻の勧めで多国籍企業ラスタ社に転職し、病院を回って粉ミルクを
売り込む。トップセールスマンとなったアヤンだが、ある医師から衝撃的な事
実を知らされる。貧困層の人々が不衛生な水で溶かしたラスタ社の粉ミルクを
乳幼児に与えた結果、多数が死亡していたのだ。それを承知しながら同社は強
引に粉ミルク販売を続けていた。心を痛めたアヤンは辞職し、ラスタ社を告発
しようとするのだが……。

<レビュー>
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二重構造で描く巨大企業との過酷な闘い
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アカデミー外国語映画賞を受賞した『ノー・マンズ・ランド』で知られるダニ
ス・タノヴィッチ監督が、パキスタンで実際に起こった事件をもとに撮った映
画です。

映画の冒頭では、1970年代のアメリカ議会での録音が流れます。そこではある
企業の幹部が死亡事故の責任追及をされて、責任は「NO」と言い放ちます。
この事実が、この映画で取り上げられる事件とつながってきます。

それはいったいどんな事件なのか。舞台は1994年のパキスタン。国産製薬会社
のセールスマンのアヤンが主人公です。しかし、国産の薬は外国産の薬に押さ
れて売れません。そんな中で、新婚の妻に勧められたアヤンは、多国籍企業ラ
スタ社の面接を受けて採用されます。

あの手この手でなりふり構わずセールスに精を出すアヤン。おかげで彼はトッ
プセールスマンになります。ところが、その後彼は衝撃的な場面に遭遇します。
自分が売り込んだミルクを飲んだ子供が、次々に衰弱し命を落としていたので
す。その事実にショックを受けたアヤンは仕事を辞めて、会社を告発すること
にします。しかし、それを知ったラスタ社や権力者たちは、アヤンを潰しにか
かります……。

この映画の基本は正攻法の社会派ドラマです。ただし、ドラマ全体に映画の製
作過程という枠をはめています。つまり、アヤンたちの闘いを映画にしようと
考えたプロデューサーや監督が、法律顧問を交えてアヤンや協力する医師など
とテレビ電話を通じて話をするという構成です。そこで語られることを再現し
たのが、先ほど紹介したドラマです。

そこでのアヤンの闘いはとにかく過酷なもの。そして、映画化を目論むプロデ
ューサーや監督たちの闘いも過酷なもの。世界的な巨大企業を相手にした告発
映画を作るのだから、少しも付け入る隙を与えられないギリギリの闘いです。
こうした闘いの二重構成が、この映画をより深く厚みのあるものにしています。

おまけに、そこにはスゴイ仕掛けがあります。映画の製作過程では、実際の企
業名を出した後で弁護士役に「社名を出すのはまずい」と言わせて、架空の社
名に変更する場面があります。その架空の社名がラスタ社。そして本当の社名
はネスレ社。そうです。あの世界的企業ネスレが、この事件の当事者なのです。

終盤では、いかにも正義の味方のようだったアヤンにも、大きな過ちがあった
ことが明かされます(ていうか、ハメられちゃったんですけどね)。それもあ
って、この映画の結末はスカッとはいきません。

ラストでアヤンと家族のその後がどうなったか告げられるとともに、劇中の子
供の映像の中には最近撮影されたものがあると明かされます。なに? てこと
は、今もこの問題は続いているんじゃないの。

というわけで、現在進行形の問題にズバッと斬りこんだ作り手の心意気に拍手
です。それが災いしたのか、この映画は、2014年製作なのにちゃんと公開され
るのは日本が初めてとか。配給したビターズ・エンド偉い!!!

≪ぽちの満足度≫
★★★☆☆(+1/2★)
(89点)
                      (田中ひろあき)

〔鑑賞データ〕
2017年3月15日(水)新宿シネマカリテにて。午前9時45分の回


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